ビールの注ぎ口がネットにつながって起こること、顧客・スタッフ・経営者にとってのメリットとは

2019.01.11
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作り手や地域の特徴を生かしたクラフトビールが注目され、複数種のビールの味を楽しめるクラフトビールの専門店やバーも増えているようです。そのビールの注ぎ口(タップ)をネットにつないだ“スマートビールタップ”を開発・販売するベンチャー企業があります。米Pubinnoです。ビールタップがネットにつながると、どんな良いことが起こるというのでしょうか。

名人同様に“泡”の立つビールを自動で注ぐ

ビールは、麦芽とホップで作った麦汁を酵母で発酵させて作る発酵飲料です。苦みや香り、喉ごし、提供温度などが“ビールのうまみ”だと言われています。原材料や作り方の違いなどによって、世界各国でさまざまなビールが提供されていえます。最近は、地域や作り手のこだわりなどが反映されたクラフトビールの人気が高まっており、樽からビールを注ぐための「タップ(注ぎ口)」をいくつもカウンターに配するビール店も増えています。

ビールを楽しまない方でも、美味しいビールの条件の1つが「泡」だということは耳にされたことがあるでしょう。ビール自体が空気に触れるのを防ぎ、うまみを閉じ込める役割があるからです。老舗のビアホールには、この泡を含めてビールを注ぐのが上手い“名人”がいると言われていますし、ビール会社が飲食店を対象に注ぎ方の教室を開き修了者を認定したりもしています。

ビール好きなら、カウンターでタップから注がれるビールを待つのも楽しい時間です。ですが一方で、泡の出来具合や、注がれたビールの量が少ないのではないかと気になる時間でもあります。最近の日本では人手不足も相まって、自動でビールを注ぐ機能を持ったビールサーバーを設置する飲食店も出てきました。

このビールタップをネットにつなぐことを考えたベンチャー企業がPubinnoです。トルコで誕生した同社は、2015年から米サンフランシスコに本社を置き、すでに7カ国で活動しています。開発・販売するのは「Taptronics」というビールの注ぎ口です。“Smart Taps for Perfect Beer(完璧なビールのためのスマートな注ぎ口”をうたっています(動画)。

Taptronics: Smart Tap for Perfect Beer from Pubinno on Vimeo.
動画:米Pubinnoが開発するビールタップ「Taptronics」の紹介ビデオ(1分30秒)

Taptronicsの基本機能は、指定した量のビールを注ぐことです。このとき、うまさの条件である泡も適切に注ぎます。そのためにTaptronicsは、ビールの温度や、樽の中の圧力、店舗の温度や湿度などをセンサーで測定し、そのデータをAI(人工知能)で分析することで10項目の品質基準を満たすように、最適な注ぎ方を導き出しているとしています。

注ぎすぎによる売り上げ損失も防止

名人級のビール注ぎが自動化できれば、従業員の動きも変わってきます。その一つが、ビールが注いでいる間の料金精算です。海外では、飲み物を注文した際に料金を支払う「キャッシュ・オン・デリバリー(cash on delivery)」方式を採っている店舗も少なくありませんが、Taptronicsなら、ビール注ぎと精算が同時にできるため、回転が良くなります。顧客もビールを早く受け取れます。

グラスぴったりに注ぐので、ビールの量が少ないと顧客が不満を持つこともなくなりますが、お店にすれば、むしろ逆に多く入れすぎないことが重要です。たとえば、1つのビール樽からジョッキ50杯が取れるところ、ビールをあふれさせてしまい45杯しか取れなかったら、5杯分の売り上げを失ったことになります。

Pubinnoによれば、ビール1樽の20%が、注ぎすぎや、料金の徴収漏れなどで失われています。正しい計量と、自動化によって従業員がきっちりと精算できることは、店舗経営には大きなメリットだといえます。

またビール樽とタップを結ぶパイプなどは定期的に洗浄しなければなりませんが、きっちりと実施されているかを監視する機能もあります。洗浄を怠ると不衛生なうえに、ビールの味も落ちます。それに気付かずにビールを提供していては、お店の評判にも影響するでしょう。

加えてTaptronicsでは、センサーデータからパイプが破損したり送出圧力が低下したりといった故障も予測します。故障が発生する前に修理することで、ビールの品質低下に伴う顧客離れを防げます。洗浄のタイミングを含めTaptronicsが従業員に通知するので、従業員にしても普段は安心して接客に専念できます。

経営データをクラウド経由で提供

これらの機能だけなら、ビールサーバーの注ぐ機能を自動化するだけでも実現できるかもしれません。ただTaptronicsは、センサーで集めたデータをクラウドに送り、AIで分析しています。その結果を注ぎ方やパイプの破損予測などに利用しているわけですが、データを集計することで、店舗とビールメーカーにも役立つ情報も提供しています。

その1つは、店舗経営者への販売情報の提供です。いつ、どのビールが何杯売れているのかを、スマートフォンから確認できます。お店のPOS(販売時点情報管理)レジのデータもクラウドに送れば、販売数と料金精算が正しく処理されているかどうかも確認できます。

ビールメーカーあるいは配送業者には、店頭の在庫情報などを提供します。在庫量を追跡することで、売れ筋分析や予測的な配送が可能になります。期待通りの品質でビールが提供されているかどうかも把握できます。

Taptronicsが集めたデータを分析することで、店頭での売り上げから、店舗やサプライチェーンの運用、品質管理までがカバーされます。消費者は美味しいビールを飲め、店舗の従業員や経営者は利益を高め、ビールメーカーは品質管理と生産計画の最適化が図れるというわけです。これらの機能を提供するクラウドをPubinnoは、「Internet of Beerプラットフォーム」と呼んでいます。

ビール作りのムダ排除によるSDGsへの貢献を掲げる

Pubinnoはさらに、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)にも貢献できるとしています。同社によれば、1リットルのビールの生産に必要な水の量は50〜200リットル。Taptronicsを使って店頭でのビールの注ぎすぎなどのムダを排除できれば、ビールの生産に必要な水の無駄もなくなり、人類が生きるために必要な水資源の持続性を高められるというわけです。

トルコ発の同社は、トルコにおける2万のビールタップの効率と品質の標準化を目指すとしています。トルコでは毎年2億リットルの生ビールが消費されており、2000万リットルの廃ビールを節約することで、40億リットルのビール生産用の水を節約するのが目標です。

ビールの注ぎ口がインターネットにつながることで、美味しいビールが飲めるだけでなく、経営効率を高め、水資源の節約にもつながる–。デジタルが持つ力の一面を象徴しているのではないでしょうか。

執筆者:大西 浩二(Digital Innovation Lab)、志度 昌宏(DIGITAL X)

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