新規事業の評価法、従来の常識にとらわれない考え方が必要に

2018.08.16
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デジタルイノベーションは、テクノロジーをテコにした新規事業開発にほかなりません。先に新規事業開発に向けた「権限移譲(エンパワーメント)」について大手や中小企業の考え方を紹介しました(『新規事業開発に向けた権限移譲のあり方、信頼とワクワク感が前提に』)。しかし、新規事業を推し進めるには、その事業をどう評価するかという課題があります。事業開発に成功している企業は、どのように新規事業を評価しているのでしょうか。

東京・日比谷で開かれた「QUM Conference 2018」(主催:フィラメント)は、新規事業開発における障壁を乗り越えるための解決策をテーマにしたカンファレンスです。QUM(組む)は、「Quest:探求、Unite:連携、Move:行動」の頭文字を取ったもので、社外のパートナーとの連携や支援、すなわち各分野の実践者やスペシャリストなどと“組む”ことが有効な手立てになり得るという考え方を表しています。

QUM Conference 2018では、事業開発の障壁の1つである「事業評価」をテーマにしたパネルディスカッションが開かれました。新規事業の立ち上げは、どんな企業にも不可欠ですが、立ち上げそのものよりも、同事業が軌道に乗るまでをどう評価し育てていくかのほうが難しいものです。

不確実性の高い事業を企業は評価できるのか

事業開発のパネルに登壇したのは、コンピューターのハードウェアベンダーであるレノボ・ジャパン代表取締役社長の留目 真伸 氏と、人材育成や経営のコンサルティングを手がけるエッグフォワードの代表取締役社長である徳谷 智史 氏、中古車売買サービス「ガリバー」を展開するIDOMの執行役員新規事業・人事・広報担当の北島 昇 氏です。三井不動産ベンチャー共創事業部統括の光村 圭一郎 氏がモデレーターを務めました(写真1)。


写真1:多くの聴講者が詰めかけた事業開発をテーマにしたパネルディスカッションの様子

すでに軌道に乗っているビジネスの評価軸には、売上高やコスト、利益などがあります。しかし、新規事業の立ち上げ期には、市場規模や競合優位性、既存事業とのシナジー効果などのいずれもが“不確実性が高い”項目ばかりです。こうした点を経営陣は、どのように評価しているのでしょうか。

留目氏は、「それは経営者の構想力次第であり、事業価値を考えるのは経営の役目だ」と強調します。同氏によれば、「現場では同じ釜の飯を食ってる人が新しいことをやっていることを嫌う」もの。それだけに「現場の同調圧力に負けず、新規事業は別会社と同様に、別のルールで動いていると宣言する必要がある」と言います。

IDOMの北島氏は、「意思決定の文化を考える必要がある」と指摘します。たとえばIDOMは、2018年6月から新しい評価・報酬制度の適用を始めました。事業計画にも大きな変化を与えるだけに、「業績目標は必要に応じて最短1週間単位で変えている」(同)と言います。「優秀な人が優秀な業績を上げているのに会社が成長しないのは経営サイドの責任」(同)との考えからです。

徳谷氏も、「不確実性が高い事業とは何かを定義する必要がある」と指摘します。「既存事業とは全く異なる事業の柱を作りたいのに、いつのまにか既存事業の延長上になってしまう。評価基準が売上高や投資額など整合性がなく、ばらばら」(同)になるためです。

事業開発を担う人材の評価制度とは

事業自体もさることながら、新規事業に携わるスタッフの人事評価は、どうでしょうか。既存事業と新規事業とで人事の評価軸は分けるべきなのでしょうか。

IDOMでは、既存事業も新規事業も評価制度は同じだと言います。ただし、既存事業が前年との業績比較が評価基準なのに対し、新規事業では、「どれだけ新しい価値の創造できたか」(北島氏)が基準になります。いずれにおいても「業績の目標を具体的に定義したうえで、数字に表すことが大切だ」(同)と言います。

また留目氏は、新規事業をM&A(企業の統合・買収)など社外の力を借りて実施する際の評価制度の見直しの必要性を指摘します。「既存社員と外部からきた社員の間に不平を感じることがあるなら、評価方法や報酬を変え解消しなければならない。外から来たチームに適用できる仕組みがあるなら、全社に適用できないと言うことはない」というわけです。

「新規事業を生み出せる人材には共通要素がある」と言うのは徳谷氏。具体的には、志や、社外ネットワークの構築スキルなどです。これらを評価しようとすれば、「何ができたかではなく、誰を採用したかということも評価軸になる」(同)と言います。

評価の結果は事業権限か報酬か

高い評価を得、新規事業開発を任せられる人材に報いるには、事業権限を与えるのか報酬を高めるのか、どちらが良いのでしょか。既存事業であれば一般に、地位と権限が比例し、給与も上がっていきます。若手が取り組むことも多い新規事業において、給与はそれなりでも、たとえば事業権限を与えることは満足感につながるのでしょうか。

徳谷氏は、「確かに給与以外のものが大事というケースはある。たとえば、なんとか役員会を通さなければならないということを嫌って辞めてしまう人が多い。本気の人ほど『価値を分かっていない人のためになぜやらなければならないのか。そこまでして、この会社でやる意味はあるのか』が辞める理由になっている」と現場の実態を明かします。

そうしたケースが少なくないことを留目氏も認めています。「イントレプレナー(社内起業家)でも実力がある人は外から金も持ってくる。そうなると社内と社外の境目がなくなる。会社は『こいつは外には出ない。これ以上はできない』と思っていても、既にそうしたケースは減っている」からです。

そのうえで留目氏は「辞めたスタッフが、元の会社と契約し引き続き業務に当たってくれるケースもある。同じ会社にいなくても、その後も仕事して一緒にやりたいとか、成長の機会や考え方などで何らかのメリットがあると感じてもらえるような関係を構築しておくことが重要だ」と、会社側の姿勢を問いました。

ただ徳谷氏は「社員にとっての“幸せの定義”まで人事は決められない。『何ができれば課長になれる』といったルールは作れても、幸せまで経営が定義するのは傲慢だろう」と指摘します。

大企業とスタートアップ企業の経営に差がなくなってきた

徳谷氏は「会社の都合だけで『新規事業を作って下さい』というだけでは、もう上手くいかなくなっている。優秀な人材ほど社外に出てしまう現実がある中で新規事業をどう捉えるのかを考える時期にある」と指摘します。

レノボの留目氏も、「PCは誕生から35年ほどで成熟したが、昨今はあらゆる事業の賞味期限や寿命が著しく短くなっている。既存事業においても“不確実性”は高くなる一方であり、大企業の経営もスタートアップ企業の経営も変わらなくなってきている」と話します。

その意味ではすでに、新規事業開発が特別なことではあってはならないのかもしれません。過去の経験や常識にとらわれることなく、時代の変化に合わせた制度や企業文化を作り出す必要がありそうです。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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