リクルートが店舗に提供するデジタル支援策、カード管理アプリやPOSレジ機能を無償提供する理由

2017.12.19
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スマートフォンの普及に伴い、消費者の行動がデジタル中心になってきたことで、店舗のマーケティング戦略もデジタルシフトが進んでいます。一方で、O2O(Online to Offline)やCRM(顧客関係管理)などに取り組みたくてもデジタルに詳しい担当者を確保できない店舗も少なくありません。そんな店舗に対する支援策を、各種情報誌を発行するリクルートが提供しています。どんな支援策を提供しているのでしょうか。

『スーモ』『ゼクシィ』『リクナビ』『じゃらん』『ホットペッパー』などなど、読者も一度は、いずれかを手にしたりWebサイトを検索したりしたことがあることでしょう。これらの、消費者と製品/サービスの提供者をつなぐメディア(媒体)を多数運営しているのがリクルートです。多数の消費者と企業やクライアントのベストなマッチングを追求するのが、同社のビジネスモデルの基本です。

クライアントの多くはリアルな店舗を持つ企業が中心。彼らに対しリクルートはいくつも支援策を展開しています。そうした中から、「デジタルデバイスとデジタルデータを活用して顧客を維持するための店舗支援」について、リクルートライフスタイル ネットビジネス本部の熊沢 恭志 氏が先頃、講演しました(写真1)。同氏は、複数のポイントカードなどを一括管理するスマートフォン用アプリ「SHOPLier(ショプリエ)」のプロダクト責任者です。


写真1:リクルートライフスタイル ネットビジネス本部で「SHOPLier」のプロダクト責任者を務める熊沢 恭志 氏

会員カードのデジタル化で自社アプリとSNSの欠点を補う

リクルートでは顧客を大きく、(1)潜在顧客、(2)ライトカスタマー、(3)ロイヤルカスタマーに分けています。潜在顧客へのアプローチは外部メディアを、ロイヤルカスタマーは、自社のメルマガやスマホアプリをそれぞれ活用します。ただ熊沢氏は、「自社アプリは意外に使われていないことに留意すべきだ」と指摘します。

一方でライトカスタマー向けの囲い込み策で重要になっているのがSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の活用です。しかしSNSなどの外部プラットフォームは「安価に顧客とデジタルにつながるが、顧客のセグメント化ができない」(熊沢氏)という課題があります。こうした自社アプリとSNSが持つ課題の解決策としてリクルートが開発・提供するのが、熊沢氏が担当するSHOPLierです(図1)。


図1:「SHOPLier」のホームページの例

SHOPLierは、「数千万人に上るリクルート会員を各社の会員組織へ誘導するデジタル会員証サービス」(熊沢氏)。デジタルマーケティングの専門知識がなくても、「購買履歴を把握できたり、ロイヤルカスタマーを育成したりが可能になる」(同)といいます。

たとえば、2016年末、東京・銀座の百貨店プランタンが、仏プランタン本社との契約終了に伴い名称を「マロニエゲート」に変更した際、ハウスカードの運用を終了し、SHOPLier対応のデジタルカードに一本化しました。初年度の会員登録目標は旧カードのアクティブ会員数の5万人でしたが、開始3カ月で5万人を達成。「現在は7万人を突破している」と熊沢氏は明かします。

顧客カードをデジタル化することのメリットは、「なんといってもプッシュ通知が送れること」と熊沢氏は強調します。「プッシュ通知はDM(ダイレクトメール)に比べコストが低く、配信頻度を高められる。しかもメルマガに比べ開封率もコンバージョン率も高い」(熊沢氏)のです。具体的には、「開封率は30%。そのうち購買に結びつくのが8%なので、一般的なメルマガに比べて8倍の効果がある」(同)のです。

POSデータと顧客データを組み合わせることが重要

店舗への集客に利用するデータは、店舗のPOS(販売時点情報管理)データと顧客情報。顧客情報を組み合わせるのは、リピート客を優先するといった判断が可能になるからです。たとえば、AとBの2つの商品がある場合、POSデータだけからではよく売れているAにしか目が向きませんが、顧客情報を見ると、「Aは1回だけ買う人が多いのに対し、Bはリピートする人が多い」といったことが分かります。そうだとすれば「Bをプロモーションしたほうが、もっと売れるようになるのではないか、という仮説が成り立つ」(熊沢氏)のです。

しかし、デジタル化が進んでいない店舗では、この顧客データの取得・整備すらままなりません。店頭や電話で顧客にアプローチし「カルテ」に記入し、何カ月に1度に購買額を集計して、顧客をランクに分けしてファイリング。そこから見込み顧客を探して連絡するということを続けている店舗も多いようです。

こうした顧客管理業務の支援策として、たとえば無料のPOSレジシステム「AirREGI」などを提供しています(図2)。


図2:「AirREGI」のホームページの例

AirREGIを使って売り上げと顧客を登録し、店舗管理ツールを使えば、顧客を購入金額でソートしたり、顧客のランクを色分けしたりが、すぐに実現できます。顧客の詳細情報をみれば、来店する曜日や時間帯、自店舗との併売ブランドなどがわかるため、「顧客の行動に合わせた施策を打てるようになる」と熊沢氏は説明します。

店舗で発生するデータの価値について、熊沢氏は飲食店における客単価向上
プロジェクトを例に説明しました。同プロジェクトでは、お薦めが成功するメニューと、客単価が向上するメニューとに分けて実施結果を分析しました。これまでは人気メニューを単純にお薦めしていましたが、顧客との相性が良く売り上げにもつながるメニューをお薦めしたところ、「客単価が400円アップした。つまり理論上は売り上げが10%以上向上するという結果が得られた」(同)のです。

購入後のフォローも容易になると言います。あるカフェでは、初めての来店者にフォローとして次回利用できるクーポンをプッシュ送信したところ、送った人と送っていない人では翌月のリピート率が3倍以上差がつきました。フォローのプッシュメールを送るタイミングについても、その効果を測定しており、「翌日にプッシュ送信したほうが効果が高い商品もある」と熊沢氏は話します。

AIのコモディティ化でデータの価値がさらに高まる

デジタルマーケティングによる売り上げは、マーケティング施策を打った回数と対象顧客数、および、その施策が有効に働いたCVR(Conversion Rate:コンバージョン率)で決まります。実際には、「顧客数とCVRを上げるのは難しいため、施策の実施回数を上げることが重要になる。そのためには施策を打つ仕組みの自動化も重要になる」と熊沢氏は指摘します。

自動化に向けてリクルートが積極的に採り入れているのがAI(人工知能)です。マーケティング施策の成果を高めるために、何百通りもの打ち手を自動で実行し、その結果を機械学習させているほか、大規模数理計画法という手法を活用し、売り上げの最適化を図っています。

AIについて熊沢氏は、「今後、コモディティ(日用品)化していく。現状はデータサイエンティストを抱える企業が優位だが、AIがコモディティ化しだれもが使えるようになれば、優位になるのはデータを持つ企業だ」とみています。「だからこそ今は、データをためることに注力してほしい」(同)とも強調します。

今後、GPS(全地球測位システム)やビーコンを活用すれば、購入に至るまえの行動データなどが取得できるようになります。データの量や種類が増え、AIが進化すれば、デジタルマーケティングの手法も変わるでしょう。熊沢氏は、これからのCRMでは「行動データと購買データを統合して分析し、離脱を防ぐことで売上をどう高めるか。つまり購入しなかった顧客の離反防止策を科学していくことが必要になるはずだ」と予測します。

そこに向けリクルートは、「オンラインとオフラインのデータを統合し、同社が持つデータを活用することで、より最適な情報を、より最適なタイミングで届けられる、リアル店舗のマーケティングオートメーションの実現を目指す」(熊沢氏)と言います。データの価値をどうみるかで、データ活用に向けた取り組みは、大きく変化することをリクルートは体現していると言えそうです。

執筆者:中村 仁美(ITジャーナリスト)

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