「OSSのコミュニティこそが21世紀の事業モデル」米Red HatのWhitehurst CEOが言い切る

2016.07.28
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筆者は2016年6月末、米サンフランシスコで開催された「Red Hat Summit 2016」に参加しました。主催者である米Red HatのCEOであるJim Whitehurst氏が来場者に伝えたのは、同社の製品戦略でも製品活用を訴えることでもなく、「The Power of Participation」というメッセージでした。一体、どういう意味でしょうか?

「オープンソースソフトウェア(OSS)を生み出す多様なコミュニティこそが、イノベーションの源泉です。第4次産業革命と言われる今、企業はそれを見習って事業モデルを変革する必要があります。ここに集まった企業のITリーダーやエンジニアの皆さんには、もっとコミュニティに着目し、参画することを期待しています」

これが、Red Hat Summit2016において、主催者であるRed HatのJim Whitehurst CEOが語ったことのエッセンスです(写真1)。

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写真1:米Red HatのCEOであるJim Whitehurst氏は「Participation」の大事さを強調する

「オープンソースのトップベンダーであるRed HatのCEOがこう語るのは、当然では」と思う方がいるかも知れません。あるいは「コミュニティの意義は分かるけれど、企業が見習うって?意味が分からない」という見方もできるでしょう。確かにそうかもしれませんが、そうした要素を差し引いても同氏の発言には耳を傾ける価値があると筆者は考えます。

その理由を説明するよりもまず、Whitehurst氏の講演内容を紹介しましょう。その方が早いと思うからです。なおRed Hat Summit 2016のテーマは、写真1にあるように「The Power of Participation」。直訳すれば「参画・関与することの力」。少し意訳すれば「参画・関与が力を生み出す」といった意味でしょう。

第2次産業革命の牽引役は何か?

Whitehurst CEOは次のように話し始めました。

「2016年初めにスイスで開催されたダボス会議では“第4次産業革命”がテーマになりました。ネットとAI(人工知能)、3D(3次元)プリンター、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)などの融合がもたらすデジタル化の進展です。その中でどう生きるか、活動するか、どう働くかは、我々にとって大きな問題です。だからこそダボス会議でも取り上げられたのです。それを考えるために、過去の産業革命を振り返ってみましょう」

同氏によると第2次産業革命(1865年〜1900年)以前の1850年頃まで、企業の従業員数は平均3人ほどでしかありませんでした。細々とした家業、あるいは家内工業だったわけです。それが、内燃機関や電機モーター、照明などが急速に進化した第2次産業革命を通じて、50年後の1900年前後には数千人もの従業員が働く大規模な工場が多数生まれます(写真2)。文字通りの産業革命だったわけですね(写真3)。

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写真2:第2次産業革命の時代、大規模な工場が次々に生まれ、家内制手工業からの脱却を果たした

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写真3:第2次産業革命では様々なテクノロジーが発明され、実用化された

ただし機械や電機の発明だけで産業革命が進展したわけではありません。大きな問題の1つが、「増える一方の従業員や労働者をどう組織化し、管理し、工場を運営するか」でした。何しろ機械化したところでオペレーション(操作)するのは労働者ですから、個々の労働者の役割や仕事の手順を決めないと仕事は回りません。あるいは仕事の内容に見合った報酬を払わなければ従業員は辞めてしまいます。

実際、当初は命令系統さえ不十分で、組織的な怠慢が頻発。機械化に大金を投じたのに生産性は上がらないことも多く、当時の経営者を大いに悩ませたようです。しかし必要は発明の母であり、階層型の組織構造(ヒエラルキー)や科学的管理手法(テイラーシステム)が考案され、それらが急速に普及することで産業革命を支えました(写真4)。

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写真4:多くの従業員や労働者を管理する階層構造や科学的管理手法が考案され広がる

ちなみに科学的管理手法とはWikipediaによると、“課業(仕事量=ノルマ)”の設定、諸条件と用具などの標準化、成功報酬と不成功減収、最高難易度の課業、という5つの原理だといいます。今日では当たり前ですが、第2次産業革命の初期には、こうした考え方は存在さえしなかったのですね。しかし、おかげで1980年代に至るまでの間、約30年ごとに生産性を2倍にすることに成功。米国のアポロ計画を成功させるほどの成果も生み出した、それらの手法は社会や企業のすみずみにまで深く定着しました(写真5)。

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写真5:多くの人を組織化し、大規模なプロジェクトを可能にするスキルも蓄積された

ここでWhitehurst CEOは、それらの問題を指摘します。

「ヒエラルキーや管理手法は大きな成果をもたらす一方で、創造性を排斥してしまう問題を生み出しました。今日、世界は驚くべき速さで変化しており、我々はどこへ行くのか、それさえ分かりません。(第4次産業革命において)イノベーションは必須ですが、(第2次産業革命を成功させた要因が)それを制約しているのです」

ヒエラルキーや管理手法がイノベーションを阻害

お分かりでしょうか?テクノロジーの進化を享受するには、機械化と科学的管理手法のように、テクノロジーを生かす制度や手法が必要になる。それが存在しないだけでなく、旧来の制度や手法が邪魔をしているというわけです。成功の復讐というべきか、成功体験が仇になるという面白いロジックです。

同氏は、こう話を進めます。「どうすればイノベーションのためのシステムを作れるのでしょうか。自然界から学べることがあります。過去、最も成功してきたイノベーションのシステムはダイバーシティ(多様性)です」。環境変化に適応するために生物は、多様な方向に進化し、その中で適者が生存してきたというものです。ではどうやってダイバーシティを実現すればいいのでしょうか?

まず「ヒエラルキーやテイラーリズムを打ち壊すのは、全く新しいものを作るよりも大きな困難を伴う」(Whitehurst CEO)という現実があります。ヒエラルキーなどをなくせば、それこそ自然にダイバーシティを実現できる可能性があるように思われますが、それは無理というわけです。そこで様々なオープンソースを生み出し続けている「多様なコミュニティ活動に着目せよ」という話につながっていきます。

「質の面でも量の面でも、多様なアイデアをぶつけ合ってコラボレーションすることがダイバーシティを生み出します。しかし1つの組織内だけでは(ヒエラルキーなどが優越するので)これを行うのは現実的ではありません。そこで“The Power of Participation”が重要になります。これは個々の人のアイデアの総和を超えるコミュニティを形成することでもあるのです」

加えて今日、問題はどんどん複雑化しています。いいものを大量に作ればいい時代は過去のものになりましたし、技術進化が人の仕事を奪う問題も指摘されるようになりました。やはり1つの企業や組織だけでは、どうこうできる話ではないでしょう。最後に同CEOはこう締めくくります(写真6)。

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写真6:Whitehurst CEOの結論

「オープンソースのコミュニティは、そうした問題を乗り越えるイノベーションの場であり、今日におけるベストなアイデアを生み出すシステムです。存在しない何かを生み出すために最高のアイデアを結びつけ、昇華することができるかどうか。未来はParicipationにかかっています」

我々は全身全霊で共創に取り組む必要がある

大筋、以上のような話でした。読者の皆さんはどう思われたでしょうか?Whitehurst氏の講演を聴きながら、筆者は少し前に紹介した『ビジネスの変遷から知る「共創」の意味、データと相俟ってデジタルビジネスの必然に』という話と、強い共通性があると感じました。

実際、GoogleもFacebookもAWS(Amazon Web Services)もIBMも、さらにはMicrosoftも、米大手ITベンダーは、こぞってOSSにコミットしています(写真7)。米国の有力企業が軒並みOSSに参画し、何らかの貢献をしているのです。その結果、「昨日の敵は今日の友」とでも言うべき、一昔前には考えられなかった企業同士の関係が多数生まれています。競争する企業同士が、その傍らで手を組み一緒に何かを行うのは、もはや常識になっています。

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写真7:米Googleや米AWS(Amazon Web Services)もオープンコミュニティに参画している

なぜ、そういったことが起きるのか?コミュニティと共創や貢献、イノベーションの創出などの間には切っても切り離せない深い関係があるのではないか?だとすれば我々は全身全霊を賭けて、本気で他社(者)との共創に取り組むべきではないか?−−そんな仮説に辿り着きます。このことは「デジタルビジネスをリードする企業が利用するITの多くはOSSである」という事実とも符合します。

少なくとも「1つの組織内だけでは(ヒエラルキーなどが優越するので)、コラボレーションを行うのは現実的ではない」という指摘は重要でしょう。それさえできないのにイノベーションを生み出すのは、相当の困難を伴うからです。であるならば我々は共創にもっと真剣に取り組む必要があります。読者の皆さんからも、何らかのご意見を頂ければ嬉しいです。

執筆者:田口 潤(IT Leaders)

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