病院にも薬局にも行かずに受診と服薬が可能に、米国で広がる遠隔診療と薬のデリバリー

2016.04.01
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自分の身体や家族の具合が悪くなったらどうしますか?「診療所や病院などの医療機関へ出向いて診療を受ける」——。それが当然の答えでしょう。でも、身体の具合が悪いときに医療機関へ出向いたり、やっとの思いで医療機関に到着しても診療まで待たされたりすることを考えると気が重くなり「とにかく薬がもらえればいいのに」とも思ってしまいますね。

病院を受診し薬を受け取るまでには一般に、次のようなステップを踏んでいるはずです。

(1)病院へ出向き受付窓口で受付を済ませる
(2)医師の診療を受ける
(3)処方箋を受け取る
(4)薬局へ処方箋を持参し薬剤師から処方箋薬を受け取る

医療機関を訪れた患者の多くが感じるのは、「待ち時間」が長いこと。受付を済ませてから呼ばれるまでに1時間かかることも珍しくありません。薬局でも処方箋を出してから薬を受け取るまでに20分ほどかかるのが現状です。病院への行き帰りに加え、薬を受け取るまでの待ち時間の長さが身体の負担になることは言うまでもないでしょう。

「待合室をスキップ」、スマホで24時間365日の診療を提供

こうした待ち時間や移動時間など患者の負担を解消する手段として、米国ではICTを活用したTelemedicine(遠隔医療)が始まっています。その柱は、遠隔診療と処方箋薬のデリバリーです。自宅にいながら診療が受けられ、薬も受け取れることは、国土が広く医療機関までが遠い米国で魅力的なはずです。

まず遠隔診療は、病院へ出向かなくてもビデオ会議システムを利用しフェース・ツー・フェースでの医師の診療が受けられサービスです。例えば、医療ベンチャーの米MDLIVEが手がけるサービスでは、同社の理事会が認定し登録されている2300人の医師やセラピストに24時間365日アクセスできます。同サービスのうたい文句は「待合室をスキップできる」ことで、ベンチャーキャピタルからも多くの資金を集めています。

MDLIVEの紹介ビデオ

診断を受ける側が用意するツールは、電話かPCあるいはスマートフォンだけ。PCやスマホを用いたビデオコミュニケーションを通じて医師が患者に問診しながら診療し、電子処方箋を患者が指定する薬局に送信します。スマートフォンなどモバイルデバイスであれば、自宅以外からも診療を受けられます。つまり、一般的な受診ステップの(1)〜(3)が自宅にいながら、あるいは外出先からでも済ませられるわけです。

MDLIVEによれば、実際に診療所などを訪ねた際の費用は120ドル。それが同社のサービスであれば49ドルです。移動時間や待ち時間が不要で、医師にすぐ診てもらえることを考えれば安価と言えるかもしれません。MDLIVEの利用者の90%以上が、同社のサービス内容について「Excellent(優れている)」または「Good(良い)」と評価しているようです。

注文から平均16分で処方箋薬を資格保持者が届ける

一方、処方箋薬のデリバリーは薬の宅配サービスです。スマホなどを用いて患者が処方箋の情報を入力すると、薬局から自宅や事務所にまで薬が届きます。MDLIVEなどの電子処方箋を送れば、情報入力も不要になります。受診ステップの(4)を代替します。

米Zipdrugは、処方箋薬のデリバリーサービスを手がける1社。ニューヨークやニュージャージーといった東海岸を中心にサービスを提供しています。医療分野のネットサービス事業者は決して、シリコンバレー発ばかりではないようです。

Zipdrugのサービスでは、薬を注文してから平均16分で受け取れます。同社のスマホ用アプリケーションを使えば、薬の配達状況を画面上の地図でリアルタイムに確認できます。患者に安心感を与えるための機能といえるでしょう。

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図:待ち時間の浪費を訴える米Zipdrugのホームページ

薬を配達するメッセンジャーは、HIPAA(米国における医療保険の相互運用性と説明責任に関する法令)のトレーニングを受け、試験に合格した専門家で、薬を手渡す際には服薬の注意事項などを患者に直接伝えることでも、患者に安心感を与えています。

日本でも遠隔診療が事実上解禁に

このように、米国では遠隔診療と処方箋デリバリーが実用化されています。自宅から出なくても、「具合が悪いな」と思えばすぐに診療を受け、必要な処方薬を受け取るのです。翻って日本の状況はどうなのでしょうか。

これまで日本での遠隔診療は、離島や僻地など医師が不足していたり専門医がいない地域にのみ適用できると考えられていました。ですが、その考え方を変える通達が2015年8月10日、厚生労働省から出されました。「遠隔診療の適用範囲を狭く解釈しなくて良い」としたのです。この通達により、日本における遠隔診療が事実上解禁されたと受け止められ、遠隔診療のサービス提供に乗り出す動きが広がっています。

そんなサービスの1つが遠隔診療と健康相談を提供する「ポケットドクター」。スマホのカメラを使って患部や表情を医師に見てもらいアドバイスを受けられます。ビジネス向けアプリケーションの開発会社であるオプティムと、医療情報プラットフォームを提供しているMRTが共同開発しました。2016年4月のサービス開始を予定しています。

ポケットドクターの紹介動画

処方箋については、2016年4月に電子化が解禁されました。全国への普及までには時間がかかりそうですが、それを先取ろうとするITベンチャーが登場しています。「PORTメディカル」を立ち上げたポートです。高血圧症や高尿酸血症、高脂血症など約10種類の症状を対象に、診療から調剤の配送までをインターネットで完結できるサービスで、2015年秋にα版の提供を開始し、2016年春にはβ版をリリースする予定です。ただ、薬の配送には数日かかるとしています。

高齢化が進む今後は、都市部でも病院への移動や待ち時間を負担と考える人は増えることでしょう。そんな不満を解消する遠隔診療が、日本でも早期に普及することを期待したいものです。

執筆者:狩野 賢司(Digital Innovation Lab)、小林 秀雄(ITジャーナリスト)

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