自動運転で変わる居眠り防止策、「ドライバーを起こす」から「車を安全に止める」へ

2016.11.29
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自動車の自動運転に対する関心が高まっています。最終目標は、ドライバーの操作なしに自動車が安全に走行できること。早ければ2018年ごろには高速道路の走行で自動運転が始まる見通しです。そこに向けた技術開発が進む中、他の用途にも自動運転技術を適用する動きが出てきました。その一例が、車を安全な場所へ誘導し停止させること。居眠り運転や、よそ見運転、あるいはドライバーが突然の病気に襲われても交通事故を減少させる手段として注目されそうです。

車を安全な場所に誘導し停めるための取り組みの1つが、アイシングループ3社(アイシン精機、アイシン・エィ・ダブリュ、アドヴィックス)が開発した「ドライバー異常時対応システム」です(動画1)。2016年10月10日〜14日に豪メルボルンで開かれた「第23回ITS世界会議メルボルン2016」に出展されました。

動画1:アイシングループの「ドライバー異常時対応システム」の技術を紹介するビデオ

ドライバー異常時対応システムは、顔の向きや、まぶたの開閉をモニタリングしてドライバーの状態を観察することで、走行時の安全を確保するために開発されたもの。居眠り運転だけでなく、ドライバーが意識不明になり運転ができないと判断すると自動運転技術によって車を路肩に退避させます。ドライバーの状態を検知する技術と自動運転技術を結びつけました。

オムロンは、独自の顔認識技術「OKAO」にAI(人工知能)のディープラーニング技術を組みわせた「ドライバーモニタリング」技術を開発しています(動画2)。ドライバーの行動と状態をリアルタイムにとらえ、ドライバーがどれだけ運転に集中しているかを把握します。

動画2:オムロンの「ドライバーモニタリング」の技術紹介ビデオ

ドライバーモニタリングでは、まず顔認識技術でドライバーの視線や、まばたきを推定。さらにディープラーニング技術によって、ドライバーの表情や姿勢に加えて、どんな行動を取っているのか、どんな状態にあるのかを判別します。これにより、1つのセンサーで、脇見やスマートフォンの操作、飲食や居眠り、パニックや病気の発症といった様々な状態を把握できるといいます。オムロンでは、この結果に基づいて、ドライバーへ警告したり、路肩へ自動停車させたりといった対応につなげる考えです。

従来技術はドライバーに警告するものがメイン

ドライバーの状態を認識する技術そのものは決して新しくはありません。居眠り運転による事故などを防止するために技術開発が進んできました。例えば、デンソーは2014年に商用車のドライバーの運転状態を検出する「ドライバーステータスモニター」を開発しています。ドライバーの顔画像から、顔の向きや目の開き具合を解析し、目を閉じていたり正面を向いていない状態が続いた場合に、ドライバーに警報を鳴らし運転に集中するよう促します。OKI(沖電気工業)は2013年に同様の仕組みを開発しています。

ただ従来の居眠り運転防止策は、居眠りしているドライバーを起こすための仕掛けです。そのため、注意喚起をしてもドライバーが正しくハンドル操作できなければ重大な結果を招いてしまう可能性が残ります。さらに、居眠り運転ではなく、急病などの場合は、注意喚起すら効力がないため、事故は防げないかもしれません。これに対し、自動運転技術との組み合わせでは、ドライバーによる運転が困難と判断すれば、安全な場所に自動車を停止させることができます。これなら居眠り運転はもとより、急病時にも対応できることになります。

自動運転から手動運転への切り替え時に新しいリスクが生じる

自動運転による安全停止の仕組みが登場してきた背景には、自動運転の実運用に向けたガイドラインが示されたことがあります。2015年2月、経済産業省の製造産業局長と国土交通省の自動車局長は、私的勉強会として「自動走行ビジネス検討会」を設置しました。同検討会は2016年3月23日、今後の取り組み方針を発表し、その中で「早ければ2018年頃までには、まずは高速道路において、ドライバーが走行の安全に責任を負い、いつでも運転操作が行えることを前提に、加減速や車線変更等の自動走行(レベル2)が実現」としたのです(公開資料の3ページ目)。

この「高速道路では自動運転ができる」という記述は、裏返せば「一般道では手動で運転することを求める」ということです。そうなれば、高速道路から一般道に降りる際には、自動運転から手動運転に切り替えなければなりません。このとき、ドライバーが自動運転から手動運転に切り替わっていることに気づかなかったり、手動でのハンドル操作が不十分だったりすれば事故を招く可能性があります。こうした自動運転と主導運転の切り替え時のドライバーの状態に着目したのがオムロンなどの新しいドライバーの状態把握システムなのです。

例えばオムロンの場合、「どれくらいの時間で運転に復帰できるか」「どれくらい安全に運転できる状態か」といった観点からドライバーの運転可能レベルを判定する機能を開発していします。その判定に基づいて、自動運転から手動運転に切り替えるのに必要な時間を判断するほか、ドライバーの状態が危険であれば、自動運転のまま路肩に停車させるというわけです。

自動運転技術から様々なサービスが誕生

ドライバーが操作しない完全な自動運転が実現されるまでには、まだ時間がかかるでしょう。しかし、今回紹介したように、自動運転技術を応用したサービスが多々登場してきそうです。既に、自動で縦列駐車したり、人が乗り降りできる余裕のないスペースに駐車したりするシステムなどは実用化が始まっています(動画3)。

動画3:自動運転による車庫入れ。ビデオはアイシングループが「ドライバー異常時対応システム」と同時に出展した「リモコン駐車」のもの

「自動運転から手動運転に切り替える」というシーンは、これまでの運転操作では起こりえなかったことです。そのシーンは、2年もすれば当たり前になるのです。同時に新しいリスクをもたらす可能性もあります。ドライバーの状態を検知する技術と自動運転技術の融合は、未知のリスクを解消すると期待できます。自動運転技術が発展していく過程では、自動車にまつわるサービスに対する考え方を大きく変える必要がありそうです。

執筆者:高島 智浩(Digital Innovation Lab)、小林秀雄(ITジャーナリスト)

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