民泊による地方創生を、シェアリングエコノミーによる持続可能な発展の可能性

2016.09.29
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地方の持続可能な発展を実現するには、生産基盤の維持と、その基盤となる資本の集積が不可欠です。しかしながら、人材や資金が巨大都市に吸収されつつある中、地方の生産基盤の維持が極めて困難になっています。そこで、期待されるのがシェアリングエコノミーです。この新たなビジネス方式は、地域社会にどのように新たな価値をもたらすのでしょうか。今回は、民泊サービス(以下、民泊)を題材に、シェアリングエコノミーが地域の持続可能な発展に、どんな影響を与えるのかを考えてみましょう。

シェアリングエコノミーは、シリコンバレーを起点にグローバルに成長してきました。2025年には約3350億ドル規模に成長する見込みです(『平成27年版情報通信白書』、総務省)。そのうち、米Airbnbに代表される民泊仲介事業者は、ネット上のプラットフォームを通じて、空室の提供希望者と利用希望者をマッチングさせることで、空室の管理コストの削減を図ることで、仲介料を得ています。

動画:ホスト達が紹介する「Airbnbとは」

日本には既に、米HomeAwayや中国の自在客など12以上の民泊仲介業者が進出してきています。さらに、規制緩和の影響から国内発の民泊も始まっています。例えば、賃貸住宅情報を提供するアパマンショップは、今後の法令改正に伴う認可に準じて、民泊仲介事業APAMAN B&Bを開始する予定です。民泊仲介業者に付随して周辺関連ビジネスも急激に発展しています。主には、登録・翻訳代行サービスなどです。2016年9月時点で、Airbnbに登録している代行サービス業者だけを見ても49社に上っています。

ローカルな体験を得るための民泊利用者が少なくない

では民泊は、ホスト(空室提供者)、利用者、不動産業者などのステークホルダーに、どんなメリットとデメリットをもたらすのでしょうか。それを整理したのが表1です。

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表1:民泊がステークホルダーに与えるメリットとデメリット

まずメリットですが、ホストにすれば、寝具や家電などを最低限整えれば、収入が得られます。利用者にすれば、民泊では、1室単位で価格が設定されていることが多いことから、2人以上で利用すれば、より安価に宿泊できます。不動産業者は今後、民泊に参入することで空き家の活用が期待できます。加えて、相続税などの節税対策としての不動産投資の増加も指摘されています。民泊施設が増えた地域にあっては、税収入の増加や関連ビジネスによる雇用の創出、さらには観光客を呼び込むチャンスにもつながるでしょう。

現在、民泊の利用者の大半は訪日外国人観光客です。従来、彼らにとっては日本での宿泊費と交通費が高い負担になっていました。そこに、低コストの民泊が登場したことで、観光客に対する金銭的ハードルが下がり、滞在期間の延長や消費エリアの拡大を可能にしました。

民泊では、ユニークな、あるいはローカルな体験が目当ての利用客も少なくありません。例えば、ホストが芸術家や写真家などであれば、彼らに対する口コミから、その人柄や経歴に興味を持ったり、独特な家の作りや内装を見学したくなったりするケースです。ホテルなどの宿泊施設がない地方においても、非日常的な体験を求める民泊利用者を呼び込める可能性があります。実際、奈良県明日香村では、農家の暮らしを体験するために民家に宿泊した人数が2015年に4600人に達しています(『日本経済新聞電子版』2015年11月10日)。

地方における生産規模の維持は、持続可能な発展に重要な意味を持っています。上記のような点に着目すれば、民泊が地方にヒトとカネを運び、ホテル・旅館を補うような役割として機能したり、情報を外部に発信したりすることで、地方の活性化に一役買う可能性があるのです。

近隣住民とのトラブル解消が“まちづくり”のコミュニティ作りになる

当然、懸念もあります。例えば、空き部屋の提供と利用のマッチング自体、利用者にとっては、大量の口コミレビューを比較したり場所を確認したりすることで時間コストが発生します。ごみの分別や騒音を巡る近隣住民とのトラブル対応も、ホストや地域にとって大変な労力を強いることになります。民泊は、既存のホテル・旅館業界と激しく対立しているため、公平性・安全性の観点から地域の特徴に合った法規制の整備が不可欠です。

民泊による近隣住民とのトラブルなどについては、公衆衛生・防犯・防災問題に関する議論として、地域住民をはじめ、様々なステークホルダーの普遍的な参加と協働によって、地域コミュニティの再建策として取り組む必要があります。例えばAirbnbでは、ミートアップやホスト同士の体験談共有といった自発的なイベントを積極的に実施しています。これらの活動は、近隣とのトラブルの予防につながると同時に、そうして形成された新たなコミュニティが主体になり、地域の観光・雇用情報を共有したり拡散したりすることにも貢献します。

民泊が普及すれば、持ち家の資産価値に対する認識が高まり、建物のデザインや周辺環境との一致などが、より重視される可能性があります。事実、Airbnbの人気物件をみると、立地以外に古民家や現代風にデザインされている物件が多いのです。今後、民泊市場が拡大し、様々なステークホルダーが“まちづくり”などに参画するようになれば、眠っている観光資源の創出にも寄与するでしょう。

シェアリングサービスは、現代社会の隙間を利用し、時間の価値、知識の価値、私物資産の価値を可視化する効果を持っています。ICT技術を駆使し、新たな信用社会を作り上げることで、資源配分の最適化をもたらす仕組みでもあります。この新経済をうまく利用することで、地方における生産基盤の維持や新たな雇用創出が期待できるのです。

執筆者:楊 珏(富士通総研 経済研究所 上級研究員)
筑波大学大学院生命環境科学研究科博士(環境学)。研究分野は環境経済学・環境政策。国立環境研究所地球環境研究センターアシスタントフェロー、特別研究員(2008~2012年)、東北大学環境科学研究科産学官連携研究員(2012~2015年)を経て、2015年4月富士通総研に入社。これまで、国際環境レジームの形成要因分析や環境認証制度の普及、国家間持続可能性比較評価や制度の質が持続可能性に与える影響分析など数多くの研究を行ってきた。現在は、各都道府県の包括的富を計測し、少子高齢化社会の課題解決に資する多面かつ統合的な研究を行っている。

※この記事は、『ER第3号』(富士通総研 経済研究所、2016年9月)の掲載論文『シェアリングエコノミーと地方の持続可能な発展』を再構成したものです。

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