モラルはシステムで作る、シェアリングビジネスのサービス品質を守れ

2017.08.15
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遊休資産を必要な人に必要なときだけ貸し出すシェアリングエコノミーが台頭しています。ただ、モノを共有するシェアリングビジネスでは、提供されるモノやサービスの品質をどう確保していくかが課題の1つです。ある利用者がモノを粗雑に扱ったり提供されるサービス内容が低下したりすれば、利用者離れにつながるからです。先行するシェアリングサービスでは、モノやサービスの品質を担保するための仕組みを採り入れています。どのような仕組みなのでしょうか。

“心理的効果”と利用者の報告で不正を防止:シードの「Smart Parking」

Smart Parking」は、シードが全国展開する空き駐車場のシェアリングサービスです。契約者がいない駐車場や空き地にビーコン機能を備えたカラーコーンを置くだけで、専用アプリを持っている利用者に駐車場として貸し出せるようになります。利用者は駐車時と出庫時にスマートフォンをカラーコーンに近づけるだけで決済処理までが完了します(動画1)。

動画1:「Smart Parking」の紹介ビデオ(1分)

専用のカラーコーンを置くだけという手軽さが魅力のSmart Parkingですが、一般的なコインパーキングなどに設置されている車止めや、出庫を不可能にするフラップなどはありません。そのため、不正に車を止めようとすれば容易に止められてしまいそうです。Smart Parkingでは、不正利用をどうやって防いでいるのでしょうか。

同社の説明によれば、カラーコーンを設置することが、その場所が「時間貸しの駐車場」であることが明確になり、心理的な抑止力になっています。加えて、駐車場の利用者による不正利用の報告も始めています。専用アプリに備わる不正利用の報告ボタンを使って不正利用が報告できます。報告した利用者にはポイントが付与される仕組みです。

カラーコーン自体、固定されていないので盗難の可能性があります。この点についてもシードは、「他に使用できるものはないので、まず盗まれません」としています。仮に盗まれても、新しいカラーコーンを配送し置き直すだけなので、駐車場のオーナーにとっても手がかからないようになっています。

IoTとポイント制度で利用者の意識を向上:タイムズカープラスのカーシェア

1台の利用者を複数人で利用するカーシェアリングでは、必要な時に必ず利用できるだけの車の台数に加え、その車の状態が利用者の満足度を左右します。レンタカーであれば、営業所のスタッフが車の受け渡し時に状態のチェックや清掃が可能ですが、無人の駐車場などに“乗り捨て”ができるカーシェアでは、そうしたチェックはできません。

そこでカーシェアリング大手のタイムズ24が提供する「タイムズカープラス」では、IoT(モノのインターネット)の仕組みも使ったポイント制度を運用することで、利用者が車を大切に利用してくれるように動機付けを図っています。

タイムズカープラスのポイントには、利用料金や契約期間などに応じて貯まる「タイムズポイント」と、車を大切に利用した際に貯まる「プラスポイント」の2種類があります。後者のプラスポイントに基づく優遇策として「TCPプログラム」を展開しています。プラスポイントは、利用期間の長さや誕生月の利用などでも付与しますが、IoTによって実際の運転方法なども評価します。

IoTで把握しているのは、運転速度の変化と給油量です。運転速度では、3秒間に時速25km以上の急加速あるいは時速35km以上の急減速を計測しており、こうした運転をしない利用者にポイントが付与されます(図1)。給油量の計測では、20リットル以上を給油すればポイントが加算されます。いずれも目視や自己申告でなくシステムが記録したデータに基づいているため、誰かが特別に測定したり報告したりする必要もありません。逆に返却予定時間を過ぎたり駐車違反をしたりするとポイントは減点されます。


図1:「TCPプログラム」における“エコドライブ”の定義(同社ホームページより)

運転状況はIoTで計測できますが、車内の汚れ具合などは分かりません。そこは利用者によるアンケートを実施しています。シェアリングならではの質問項目と言えるのが、借りた車を直前に利用していた人の返却状態を問うものです。回答者にポイントが付与されるだけでなく、次の利用者から返却状態について高い評価を受けられれば、その利用者にもポイントが付与されます。次の利用者による評価をポイントに反映させることで「車を綺麗に使う」というモチベーションを高めようというわけです。

サービスの提供者と利用者が相互に評価:Airbnbの民泊

利用者によるレビューは“口コミ”として多くのECサイトなどでお馴染みですが、その真偽を巡っては色々な議論も起こっています。このレビューの確からしさを高めるために工夫しているのが民泊最大手のAirbnbです。

Airbnbのレビューの特徴は、宿泊場所を利用したゲストだけでなく、宿泊場所を提供したホストもレビューすることで初めて、それぞれのレビューを確認できる点です。これにより、悪い評価を受けた際に悪い評価で報復するといった“負の連鎖”を防ごうというわけです。そのうえで、レビューできるのがチェックアウトから14日以内というルールによって、ホストとゲストが相手の評価を探り合ってコメントしないといった事態も防いでいます。

この仕組みの前提としてAirbnbは評価が高いホストを「スーパーホスト」として認定する制度を運用しています。その条件は、過去1年間に宿泊の受け入れ実績が最低10件あり、ゲストの半数以上がレビューを残し、そのレビューの80%以上が5つ星の評価であることに加え、過去30日間の新規の問い合わせと予約リクエストに対し24時間以内に返答した割合が90%以上で、確定した予約はキャンセルすることなく、すべて宿泊まで完了していなければなりません。

つまりスーパーホストは、ゲストからの問い合わせ段階からマメに応対し、ゲストからの高評価を受け続けなければなりません。単に空き部屋を提供すれば良いというわけではないのです(動画3)。

動画3:Airbnbのホストの姿勢を紹介するビデオ(1分53秒)

ちなみにスーパーホストに認定されれば、サイト上で認定バッジが表示され信頼度が高まるほか、特別な優先電話サポートやサイトの新機能プレビュー、スペシャルイベントへの招待といった特典があります。認定を1年間続けられれば100ドル分の旅行クーポンも得られますが、金銭的な見返りよりも、民泊サービスの品質向上に寄与する“名誉”的な特典が多いこともAirbnbの戦略といえそうです。

「共有地の悲劇」をデジタルで解消する

1つの資源を複数人で利用するシェアリングに対して、経済学には「共有地(コモンズ)の悲劇」という法則があります。「協力し合えば全員にいい結果をもたらしたはずが、一部の人が利益を追求したことで共有そのものが成立しなくなる」といった状況を指します。例えば、海の魚という資源であれば、誰もが適量を捕っていれば漁業が成立しますが、高く売れるなどの理由から乱獲が始まると、特定の種が絶滅したり、その捕獲が禁止されたりすることで、漁業が成り立たないだけでなく、そもそもの食文化までが損なわれるといったことです。

共有地の悲劇は、対象に誰でもがアクセスでき、かつ共有している資源が希少で枯渇する場合に発生します。これを回避するには、利用者を制限したり利用する量をコントロールしたりする必要があります。ですが、各種の法規制に対する批判が尽きないように、そうした回避策は逆に、特定者に市場の独占を許したり新規の参入障壁を高くしたりなど、市場の硬直化につながっています。

最近のシェアリングエコノミーは、共有地の悲劇を避けながら、市場の硬直化を打破しようとする取り組みだと言えます。そこでは、今回ご紹介したように、提供するサービス品質を維持する仕組みが不可欠です。そんな仕組みもまた、デジタルテクノロジーを利用するからこそ実現できるのかもしれません。

執筆者:山本 貢嗣(Digital Innovation Lab)、奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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