資生堂「ワタシプラス」のデータ活用、目指すのは顧客とのOne to Oneコミュニケーション

2017.03.28
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世界に6つの地域本社を置き120カ国で事業を展開する資生堂。その資生堂が日本地域で展開するEコマースサイトが「ワタシプラス(Watashi+)」です。複数のブランドを展開する同社が、ブランド別ではなく、ブランド横断型のEコマースサイトを立ち上げた狙いは、どこにあり、どんな方針で運営しているのでしょうか。

米ニューヨークにあるデジタル拠点と連携して展開

資生堂は、グループ本社の元に、日本、中国、アジアパシフィック、米州、欧州、そしてトラベルリテールの6つの地域本社を置いています。その元で、グローバルブランドと、地域で展開するローカルブランドの2種類を展開しています。日本地域においては、「SHISEIDO」や「クレ・ド・ポー ボーテ」がグローバルブランドの、「絵師クリール」や「マキアージュ」などがローカルブランドの、それぞれ代表例です。そして、これらブランドを横断的にカバーするEコマースサイトが「ワタシプラス(Watashi+)」です(写真1)。

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写真1:「ワタシプラス(Watashi+)」のトップ画面の例

同サイトの運営方針について、資生堂ジャパンEC推進事業部長の徳丸 健太郎 氏が、2017年2月14日、「第10回イーコマースEXPO 2017 東京」に登壇し説明しました。徳丸氏によれば、ワタシプラスを2012年4月に開始して以来、「Eコマースの売り上げは右肩上がりで伸びており、2016年度には化粧品Eコマース市場でトップシェアを取れるほどにまで成長」しています。

資生堂のマーケティング活動は、「CoE(センター・オブ・エクセレンス)」というネットワーク体制の基で展開されています。「カテゴリーごとにグローバルで影響力が高いエリアで情報収集から戦略立案、商品開発までをリードし、それを全世界に展開することで、世界に通用する強いブランドとして育てていく」(徳丸氏)という考え方です。例えば、スキンケアは技術が高い日本、フレグランス(香水類)は仏パリ、メーキャップやデジタルは米ニューヨークに、それぞれの本部があります。資生堂ジャパンのEC情報推進部は、ブランドのデジタル化やEコマース化の加速・拡大に向けて、「ニューヨークの本部と連携しながらデジタル施策を進めている」(同)ことになります(図1)。

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図1:資生堂におけるグループ連携の概念(出所:2016年12月期決算説明会プレゼン資料)

Amazon.comと連携しながらも自社サイトで顧客との関係を強化

資生堂ジャパンのデジタル戦略においてワタシプラスは「グループの商品やサービスと顧客を結び付け価値を届けるためのデジタルプラットフォーム」(徳丸氏)という位置付けです。ワタシプラスの“プラス”には、「顧客をもっときれいにしようというプラスや、顧客や得意先との関係をもっとプラスにしたい」(同)という思いが込められています。

2012年4月のワタシプラス投入では、資生堂が抱えていた2つの課題解決が目的でした。1つは、資生堂独自の価値を伝えにくくなっていたこと。「インターネットの浸透・定着によりメディアの価値が変化した。それまではテレビなどマスメディアを中心に広告を展開していたが、テレビを見ない人も増えた。通販やEコマースの成長により、店舗に行かない人も増加した」(徳丸氏)ためです。

もう1つは、顧客との関係が希薄になったこと。徳丸氏は、「得意先の構造変化や関係性が変化してきた。Face to Faceの対面販売がセルフ型に変わってきたなどだ。長年取り組んできた既存の会員制度も今一つ機能しなくなってきた」と当時を振り返ります。同社の取引先にはAmazon.comのようにリアルな店舗を持たない企業も少なくありません。徳丸氏は、こうした得意先について「Amazon.comなどは、集客力や価格競争力、利便性、瞬発力に優れている。だが、顧客とのコミュニケーションは間接的になる。つまり得意先コマースは新たな顧客との出会いと、既存顧客の利便性向上のためという方向性にある」と位置付けます。

これに対し自社Eコマースで目指すのは「One to Oneの関係を構築しブランドロイヤルユーザーを作ること」(徳丸氏)。そのためには、単に商品を販売するだけではなく、「ブランド体験のコントロールや、きめ細かいCRM(顧客関係管理)、安心感や信頼感を届けたり、顧客と直接コミュニケーションできたりなど、顧客の声が聞け、理解が進むような仕組み作りが大事になる」(同)と説明します。

ブランド/チャネル横断型で顧客のライフステージに付き合う

ワタシプラスでは現在、30を超えるブランドを扱っています。ブランド単位の単独型サイトではなく、横断型を選んだ理由を徳丸氏は、「単独型は、顧客はブランドが目指す世界観に基づき、情報やサービスを深く体験できるが、他ブランドとの比較は難しく、他ブランドの商品を同時に購入できないというデメリットがある。これに対し横断型は、興味のないブランドの情報も顧客は受け取ることになるが、複数ブランドを1カ所で比較・購入できるというメリットがある」と話します。

資生堂にとっても横断型であれば、ブランドやチャネルをまたいだ顧客行動を把握できるほか「複数ブランドにより、顧客のライフステージに合わせた付き合いが可能になる。ブランド間のクロスセル/アップセル効果が見込め、売り上げの拡大効果が期待できる」(徳丸氏)というメリットがあります。システム的にも、「単独で運用するよりも投資・運用体制の効率化が図れる」(同)という期待もあります。

ワタシプラスは、5000店ある得意先のデータを1つのIDで管理し、CRMシステムと連携する仕組みも持っています。つまり、「複数ブランド、複数チャネルを横断したプラットフォーム」(徳丸氏)です。これを使いリアル店舗とオンライン店舗の利用状況を調べると、リアルとオンラインの両方で購入している顧客のほうが1人当たりの購入金額が高いことが分かっています。今後は、「Eコマースだけで購入している顧客の購入金額をいかに上げていくかが課題」(徳丸氏)です。それを「Eコマースだけで解決するのか、Eコマースとリアル店舗を組み合わせて解決するのか。データを活用し新たな施策を検討していく」(同)考えです。

「モーメントドリブンコミュニケーション」の実現を目指す

そのために大事なことは「顧客とのコミュニケーションの取り方だ」と徳丸氏は指摘します。つまり、企業からの一方的な押しつけにならないよう、「顧客一人ひとりの要望に合わせてアプローチすることで、将来にわたる顧客との関係性を作り上げている」(同)ことです。そこで資生堂が目指すのが「モーメントドリブンコミュニケーション」です。顧客が発するシグナル(=モーメント)を感じ取り、その人に合ったコミュニケーションを実現します。

具体的には、「行動ログからモーメントを発見し、最適なメッセージを届けることで顧客体験を最適化する」(徳丸氏)こと。そのために、過去の行動ログを分析し顧客の好みを管理する「ユーザー・プレファレンス・マネージメント」の実現に取り組みます。顧客を1つのIDで管理しているデータベースにユーザー・プレファレンス・マスターを用意して顧客の行動ログを管理しているほか、データ活用に向けて社内にデータ分析チームも組織しました。ただ、「仕組みは整備されつつあるが、実行には課題がある」と徳丸氏は打ち明けます。

「どういう視点で分析するのか。切り口を考える視点が大事になるほか、収集した大量のデータの中から化粧品に購入に結びつく有効なものを見極める力も必要になる。その分析結果から、文脈にそった打ち手を構築し、高速でスタディを繰り返し勝ちパターンを生み出していく力もいる。最終的には質の高いPDCAを実現するリソースの確保とケイパビリティの向上を図らなければならない。すなわち、組織力をどう高めていくかが最大の課題だ」

化粧品Eコマース市場でトップを走るワタシプラスですが、顧客とのより良い関係を構築し売上高の向上につなげるためには、同サイトをどう機能させていくのか。資生堂ジャパンのチャレンジは、これからが本番なのかもしれません。

執筆者:中村 仁美(フリーランスライター)

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