中国アリババにとっての「独身の日(11月11日)」の意味、最先端技術を盛り込んだECサイトの裏側

2017.11.28
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中国において毎年11月11日は「独身の日」とされ、ECサイトでは特別セールが実施されます。中国EC最大手のアリババ(阿里巴巴:Alibaba)は、2017年11月11日の1日だけで1682億元(2兆8400億円弱、1元16.9円換算)を売り上げました。日本では、国内大手ECサイトの年間売り上げを上回る金額の大きさが話題ですが、アリババ自身は当日、数々の最新テクノロジーを実際に検証していたようです。アリババのECサイトの裏側を探ってみます。

2017年11月11日、アリババのECサイトでは、2016年の1207億元から40%近くも売り上げが伸び、セール開始の最初の3分間だけで100億元(1690億円)を記録しました(関連記事『中国「独身の日」、アリババの売り上げ約1.9兆円を支えた注目の“数字”』)。ピーク時の取引件数は每秒32万5000件、支払い処理では每秒25万6000件を処理しています。楽天の2016年度(12月期)の年間総売上高が3兆円ですから、その勢いには驚くばかりです。

AIやAR(拡張現実)で新たな顧客体験を提供

この数字を実現するためにアリババは、自社ECサイトに多数の最新技術を投入したことを明らかにしています。ECサイトに適用したテクノロジーの中心はAI(人工知能)です。顧客接点からサイトの内側、それを支えるIT基盤にまで幅広く適用しました。いくつかを紹介しましょう。

顧客に新たな購買体験を提供するためのAI活用の一例が、バーチャルでの試着を可能にする「手淘虛擬試衣」です。アリババが提供するスマートフォン用アプリケーションの「Taobo」と「Tmall」にバーチャル試着機能として提供しました。

利用者はまず、自身の全身像を撮影し、身長と体重を入力します。その後は、興味がある服を選択すれば、その服を着ている様子が自動的に生成されるので、似合っているかどうかを確認できます。バーチャル試着に参加したブランドには、Polo Ralph Lauren、Victoria’s Secret、Gap/Old Navy、Guess、Adidas、Gstar、Fila、Kappa、Levis,Erdosなどがあります。

実店舗での試着に向けた支援機能「時尚大腦」も用意しました。店頭の「スマート試着室」に設置したディスプレーを使って、店内にある服を使ったコーディネートをアドバイスします。そのために、Taobao/Tmallによって投稿されている50万を超える個人のコーディネート情報に、店頭にある商品情報、お薦めの組み合わせ情報などを加味しAIで分析します。

AR(拡張現実)を使ってクーポンを探すゲーム「捉猫猫」も、前年に続き、投入しました。AR技術を使ったスマホゲーム「Pokémon GO」同様に、実店舗に出現するクーポンや「紅包(現金)」を探すもので、オンラインのユーザーを実店舗に誘導します。2017年は65のブランドが参加しました。マクドナルドやKFC(ケンタッキーフライドチキン)、Pizza Hut、Starbucksといった飲食業のほか、L’OccitaneやP&Gなどの日雑品、Walt Disneyworldなどです(動画1)。

動画:「時尚大腦」や「捉猫猫」など実店舗に導入している、さまざまな技術を紹介するビデオ(5分29秒、出所:アリババグループのニュースサイト

売れる商品をAIで抽出し提案

ECサイトの“内側”でも多くのAIが利用されています。商品提案を最適化するための「天猫智選」が、その1つ。消費者のニーズや購買力、店舗の信用やサービス能力、商品の評価、ブランドのランクなどを総合的に評価し、そこから、どの商品が“爆買い”のポテンシャルがあり、独身の日の人気商品になるかを推測します。

そのため、自然言語処理(NLP:Natural Language Processing)や深層学習(Deep Learning)の技術を使って、新商品への反応や購買トレンドの変動確率を予測する複合モデルを構築しました。これにより各店舗はデータに基づいて商品を準備でき、店舗への流入も増やせることになります。

消費者のそれぞれに最適な商品を提案するには、多数の商品を扱う必要があります。ただ、より多くの商品を扱おうとすれば、ECサイトに掲示するバナーや広告なども多数用意しなければなりません。この課題に対しアリババは、AIデザインナー「魯班」を投入しました。

魯班は、バナーや広告のポースターなどを制作するAIツールです。商品の素材データから毎秒8000枚のバナーを生成できると言い、独身の日のセール期間中には4億1000枚のバナーを作りました(図1)。技術的には、深層学習や強化学習、モンテカルロ木検索などの技術により画像を認識・検索しています。


図1:素材画像からバナーなどを作成するAIデザインナー「魯班」の概念(アリババのクラウド「aliyun」のホームページより)

顧客からの問い合わせに答えるAIオペレーター「店小蜜」も、AIを使って前年以上に強化しました。50の商品カデゴリー、出店舗数では90%をカバーし、1日平均350万の顧客と対話できると言います。独身の日当日は、顧客からの全問い合せの95%を店小密がさばきました。

店小密の回答内容は、ECサイトの利用規則や、買い物カートの使い方、返品/返金処理など多岐にわたります。深層学習や演算法の技術などを使って会話データを学習し、対話能力を高めており、2017年11月時点の会話理解度は90%を超えるとしています。

大量のトランザクションさばくIT基盤にもAIを適用

さらにデータセンターの運用にもAIを利用しました。その1つが、大量データによってシステムが停止することを防ぐためのテストツール「尖兵」です。尖兵はネットワークを常に監視し、障害の発生場所を報告します。これにより、アリババ、ネットワーク障害の60%以上を自動で復旧させることができました。アリババは今回、尖兵を活用することで、1000人のエンジニアを削減しました。

さらに運用メンテナンス用のロボット「天巡」も導入しています。天巡は、360°撮影ができるカメラや、各種センサーを搭載するロボットで、自動運転と同様の仕組みで移動し、データセンターを24時間見守ります(図2)。


図2:運用メンテナンス用ロボットの「天巡」(アリババのニュースサイトより) 

天巡は、これまでデータセンターの管理要員が実施してきた巡回や、センター内の温度・湿度、電気の使用量といったデータの測定などを担当するほか、サーバーの障害も秒単位で察知し、修復まで実施します。2017年の独身の日には、アリババの「華北データセンター」の巡回・検査は天巡だけで運用できたとしています。

テクノロジードリブンな事業に“完成”はない?!

このようにアリババは、最新のAI技術を投入することで、より大量のEC取引をさばき、サービスの強化を図っています。アリババ会長のジャック・マー(馬 雲)氏は、「独身の日は、儲けるためにあるのではない。最新テクノロジーを成長・進化させるためになる」とメディアの取材に答えています。

独身の日に先立つ2017年10月11日、アリババは世界3拠点に同社初となる研究機関を設立すると発表したばかり(関連記事『中国アリババが1.7兆円かけ研究機関設立へ、大量のデータを元に社会課題の解決に挑む』)。

EC事業は、その誕生当初から「装置産業」だとされ、テクノロジーの活用が重要だと指摘されてきました。それを今も確実に実施しているのが、アリババであり、既存産業をディスラプト(破壊)している他のデジタル企業なのです。テクノロジードリブンな事業において“完成した”というタイミングはないようです。

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)、志度 昌宏(DIGITAL X)

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