古い産業の“創造的破壊”が真のサービスを生む、シタテルの河野社長が明かすサービスビジネスの本質

2016.10.06
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「Digital Disruption(デジタルディスラプション)」−−。直訳すれば「デジタル破壊」ですが、その意味を解釈すれば「デジタル化の波によって旧来のビジネスを覆し、破壊する」ことです。世界では今、このDigital Disruptionが加速しています。では、どうすればDigital Disruptionを引き起こせるのか。Digital Disruptionの体現者の1人であるシタテルの河野 秀和 社長が、シタテルを立ち上げた当時の気持ちや、新しいサービスを成功に導くための考え方を、あるイベントで話しました。

シタテルが展開する「sitateru」は、衣服の縫製のためのクラウドソーシングサービスです(図1)。衣服をデザインし販売したい人と、その衣服を実際に縫い上げる人を結び付けることで、多大な設備投資ができなかったり小ロットのために生産を請け負ってくれる工場を見いだせなかったりする人や企業でも、様々なデザインやアイデアに溢れた衣服の販売を可能にします。つまり、ファッション・衣服業界への参入障壁を大幅に引き下げる“Disruption(破壊)”なサービスです。2016年9月時点では、約1000社のユーザーがsitateruに生産を依頼し、生産を受け持つ国内縫製工場も170工場ほどが登録されています。

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図1:sitateruのホームページにおける「シタテルとは」の画面

自らの“Disruption”が起業に踏み切らせた

このsitateruを立ち上げたのが社長の河野 秀和 氏です(写真1)。そもそも河野氏は、なぜsitateruを始めようと思ったのでしょうか。この問に対し河野社長は、「自分自身のDisruptionがあったから」と語ります。対戦型ゲームなどでは良く、プレーヤーのパワーを貯め、パワーゲージが満タンになれば必殺技を出せるという設定がありますが、河野氏は「様々な理由があったものの、その根底には、ゲームのプレーヤーのパワーに近いものが自分の中にあり、そのパワーゲージが満タンになったから起業に踏み切れた」と、その時の心境を表現します。

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写真1:イベントに登壇したシタテルの河野 秀和 社長(中央)

こうした心境の背景には、創業者の家系であることや、メーカー勤務やコンサルティング事業の立ち上げなど“リアル”な現場での経験に基づき大学には行かず独学で経営学を学んだことや、その後に米国のシリコンバレーで様々なベンチャー企業の成功や失敗を見てきたことがあるようです。生々しい体験を目の当たりにしてきたことで、「頭で考えるだけではDisruptionは起きない」と感じとっていたのです。

ただDisruptionだからといっても、いきなり自分たちが持つ知識やテクノロジーを押し付けてもDisruptionは起きないようです。「郷に入っては郷に従え」の故事があるように、河野氏も「最初はアナログからスタートした」と明かします。具体的は、ユーザーである販売者や縫製工場に勤める人たちの“思い”に寄り添ったうえで、それをどのようにテクノロジーに展開するかを常に考えてビジネスモデルを描いてきたのです。河野氏は「単に流通を省略化するのではなく、まずは関わる人たちの“思い”に寄り添えるだけの『共感力』が大事だ」と熱く訴えました。

プラットフォームへの信頼とビッグデータが新たな価値を生む

sitateruなどのクラウドソーシングや、米国のUberやAirbnbに代表されるシェアリングエコノミーはいずれも、使われていなかったり眠っていたりした労働力や資産をムダに放置することなく上手くシェアすることで既存のビジネスモデルを“破壊”しています。その土台を形成しているのが、需要と供給を結び付ける、いわゆるマッチングのためのプラットフォーム(基盤)です。これからのビジネスでは、このプラットフォームとしての信頼を勝ち取れるかが問われます。

このプラットフォームについて河野氏は、「業界を再構築し、プレーヤーとして生き残っていくためには、よくあるマッチングサービスを提供するだけでは上手く行かない」と指摘します。マッチングの精度そのものは比較的に簡単に高められるからです。本当に必要なことは、「本質的な部分へと切り込み、提供するサービスに対して責任を持つこと」(同)です。sitateruの場合でいえば、縫製した衣類の品質をどう保証するかがその1つ。そのためsitateruでは、技術力で判定するといったシステムを採り入れ、工場の技術レベルを可視化しました。こうした可視化も「Disruptionの1つではないか」と河野氏は語ります。

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写真2:会場では多数の聴講者が河野氏の話に耳を傾けた

データに関する技術革新もDisruptionの大きな要素だと言えそうです。河野氏によれば、2000年当時は「ファッションのEC(電子商取引)化は最も難しい」と言われていました。ECで取り扱われていたのは、書籍のように内容が均一なものや、家電のように重いものに限られていたのです。しかし、米Amazon.comのように、流通・購買に関するビッグデータを蓄積していくと、消費者に商品をレコメンド(推奨)する仕組みの精度が高まり、取扱商品もファッションを含め多様化していったのです。

河野氏は、「相互のレコメンド機能が進化してきたからこそシェアリングエコノミーは成立している」と指摘します。sitateruにおいても、世の中にある縫製工場のデータ化は、とても価値がある情報へと変化してきています。

常に“全体俯瞰する”ことを大切に

河野氏は、sitateruを日本発で立ち上げました。ただ、例えば日本とシリコンバレーとではDisruptionなサービスが誕生する頻度が大きく異なります。この点について河野氏は、「日本とシリコンバレーでは文化をはじめ異なる部分が幾つもある」と指摘します。

その1例が、「シリコンバレーでは常にまず“大きく”考えることを大切にする」(河野氏)こと。そうすることで「新しいアイデアを出し続けられる環境を作り出すと共に、権限をどんどん現場に移譲していく」(同)。これがDisruptionの根源になっているのです。「イマジネーションやクリエーティブといった言葉をきちんと解剖し、大事にしていく」(同)こともシリコンバレー流だそうです。

さらに日本には、「失敗を賞賛する文化のようなものがない」と河野氏は話します(写真3)。河野氏は2012年に、シタテルの前身に当たる会社を立ち上げました。1通のプレスリリースを配信した後は、数々のピッチコンテストにも出場し、そこで優勝するなどで世間へのアピールも強めていきました。ところが、そうした目立つ振る舞いをすると日本では「出る杭を打つ人がいる。」(同)というのです。

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写真3:日本には「失敗を賞賛する文化のようなものがない」と話す河野氏

インターネットが高度に発展した今、我々を取り巻く環境は、国や言語、文化といった種々の壁が壊れつつあります。アイデア次第では何でも実現できる世の中になってきています。アイデアを出し続けられる環境と足を引っ張る環境とでは、どちらがDisruptionを引き起こしやすいかは明白でしょう。河野氏は「社会は今、新たな産業改革の入り口に来ているのではないか」とも指摘します。新たなDisruptionの行方に注目していくことは必要ですが、我々自身が、どのようにDisruptionを起こしていくかを考えなければいけない時代を迎えているようです。

執筆者:漆畑 慶将(OKメディア)

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