テクノロジーで実現する未来の食卓、食材から調理、キッチンまでを考える「Smart Kitchen Summit」

2018.06.19
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IoT(Internet of Things:モノのインターネット)家電やスマートハウスなど一般家庭を対象にしたデジタル化も進み始めています。掃除機や冷蔵庫、エアコン、照明など、家庭内で日常的に使用する機器もIoT製品として、インターネットにつながるようになってきました。そうしたなか、家庭での“食”を対象にデジタル化の可能性を探るイベントの1つに「Smart Kitchen Summit」があります。食のデジタル化に向けて、どんな提案がされているのでしょうか。

デジタルで変わる未来のキッチンを考える

Smart Kitchen Summit(SKS)は、「食&料理 × テクノロジー」をテーマに、未来のキッチンを考えるイベントです。スマートホームなどの調査やコンサルティングを手がける米NextMarket Insightsが米シアトルで2015年11月に開催したのが最初です。

日本でも2017年に、コンサルティング会社のシグマクシスと共に「Smart Kitchen Summit Japan」を開催しています。2018年は10月にシアトルで開催するほか、それに先立つ6月にはアイルランドのダブリンで「Smart Kitchen Summit Europe」を開催しました。

金融分野のFinTechやヘルスケア分野のHealthTechなどと並び、食や料理などを対象にしたデジタル化の取り組みは「FoodTech」と呼ばれています。SKSも、このFoodTechを対象にしたイベントだといえます。ただ取り扱う対象は、食や料理だけでなく、調理器具や調理技術、小売業や外食産業のビジネスモデルなど、幅広いようです。

どんなものが取り扱われているのか。2017年のSmart Kitchen Summitの内容から、主要カテゴリーである「Food」「Cooking」「Kitchen」のそれぞれについて、興味深い製品をいくつか紹介します。いずれも、2017年のSKSにおけるスタートアップ企業のピッチコンテストのファイナリストです。

【Food】Vardicalの自家用野菜栽培機

米カリフォルニア大学バークレー校(UCB)発のベンチャー企業であるVardicalが開発する「Vardical」は、家庭用の水耕栽培機です。同種の製品はいくつか開発・販売されていますが、Vardicalは、きょう体のサイズをあえて大きくし、インテリアとしての利用も考慮しているのが特徴の1つです。

Vardicalの仕組みは、他の水耕栽培機同様、デジタル化によって植物の状態を常にチェックすることで、順調に育つように水分量などを自動的に調整します。家庭菜園やベランダ菜園の経験がある方は少なくないと思いますが、それなりの知識と経験が不可欠で、収穫までたどり着けないといったことも起こります。

もちろん「家庭菜園は、その育成プロセスが楽しい」という面は否定できません。ただVardicalの出発点は、食物の自動栽培ではなく、食料の流通や廃棄に伴う無駄の排除にあります。「運ばず、捨てず」を突き詰めると、必要な量を手元で栽培すれば良いことになります(動画1)。Vardicalは“自給自足”や“地産地消”のための仕組みというわけです。

動画1:VardicalのSmart Kitchen Summitでの講演内容(2分58秒)

【Food】Pixsweet の3Dアイスキャンディー

米ロサンゼルスで2016年に起業したPixsweetは、3D(3次元)プリントとアイスキャンディーを結び付けたスタートアップ企業です。好みの画像や、企業のロゴやキャラクターなどのデータから、それらを3D化し、その形のアイスキャンディーを作成します(動画2)。

動画2:Pixsweetの3Dアイスキャンディーの紹介ビデオ(1分59秒)

3Dアイスキャンディーは、Pixsweetのホームページからオンラインで発注できます。キーワード検索で好みの画像を探し出しても良いし、予め用意されている形からも選べます。画像は、大きさを変えたり文字列を追加したりもできます。設定が終わるとPixsweet側で3Dデータが生成されるようです。その後、配送希望日時などを入力すれば発注は完了です。

Pixsweetでは、3Dデータからアイスキャンディーを作るためのトレーを3Dプリンターで作成。そこに果物から作っているというアイスキャンディー用のジュースを流し込み、封をしたのち冷凍すれば完成というわけです。

簡単にカスタムデザインの3Dアイスキャンディーが製造できることから、企業が自社のロゴやキャラクターをモチーフにしたアイスキャンディーを作成し、イベントなどで配付する例も増えています。“インスタ映え”するアイスキャンディーとして、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を使った企業PR用途にも選ばれているようです。

【Cooking】Cheflingのアプリは購入済み食材を元にレシピを提案

毎日の料理で最も頭を悩ませるのはメニュー決めでしょう。レシピ検索サイトが多用されているのも納得です。シリコンバレーのスタートアップ企業のCheflingが開発するスマートフォン用アプリケーションの「Chefling」も、そうしたレシピ提案アプリの1つですが、すでに購入している食材を前提にレシピを選び出すのが特徴です。

スマホアプリのCheflingは、自宅の冷蔵庫や食料庫などにある食材の管理ツールだとも言えます。レシートや商品のバーコードを読み取るだけで、購入した食材の一覧が作成されます。消費期限も管理できます。そのデータに基づいて、レシピが提案されます(動画3)。

動画3:スマホアプリの「Chefling」の紹介ビデオ(30秒)

レシピによっては、自宅にない食材が必要になるケースもあります。そうした食材はショッピングリストに追加されるほか、アプリから発注することもできます。これらの情報は家族間で共有できるため、買い物を頼んだり、同じ食材を家族が買ってしまうことを防いだりが可能になります。

Cheflingは、スマートスピーカーの「Amazon Echo」や「Google Home」と連携でいるので、調理中に音声で不足している食材を調達することもできます。

【Cooking】Lokiは肉料理を“完璧”に仕上げるための温度計

米シアトルのスタートアップ企業であるLokiが開発するのは、肉や魚のグリル料理を容易にするためのモバイル温度計「Loki Smart Link」とスマートフォン用アプリケーションの「Loki Sphere」です。

塊肉のグリルや燻製では、肉の中まで、じっくりと火を通す必要があります。そため、火加減をみながらグリルに張り付いていなければなりません。そこでLokiは、肉に差し込んだ温度センサーで得た情報から、肉の焼け具合を測定することで、グリルから眼を離していても調理に失敗しないようにしてくれます(動画4)。

動画4:「Loki Smart Link」と「Loki Sphere」の紹介ビデオ(1分3秒)

Lokiのスマホ用アプリがグリルの火力を調整したりはしませんが、調理したい肉の種類から適切な温度設定を表示するほか、最適な調理時間を予測します。肉の温度をアプリから確認することもできます。

【Kitchen】PantryChic のスマートディスペンサー

PantryChicは、2013年11月に創業した米Nic of Timeの一事業部です。小麦粉や砂糖などの粉モノを保管・計量する「Store&Dispense System」を開発・販売しています。

ケーキやパンなどを手作りする際には、小麦粉やベーキングパウダーなど材料を正確に計量することが成功の条件の1つです。計量カップや計量スプーンの出番ですが、粉が飛び散るなど意外と手間がかかり、キッチンも汚れがちです。

これに対しStore&Dispense Systemでは、専用の容器に収納しておき、これを計量器の上に載せれば、必要な量だけを取り出します(動画5)。計量器はタブレットやスマートフォンとつながり、専用アプリで検索したレシピに沿って材料を計量することもできます。キッチンを清潔に保ちながら、より簡単に材料を管理・計量できるというわけです。

動画5:PantryChicの「Store&Dispense System」の紹介ビデオ(59秒)

“食”は私たちの生活に身近で、かつ重要なテーマ

いかがでしたでしょうか。今回、紹介したのは、食にテクノロジーを加味した製品の一部です。ここに見られるように、食にデジタル技術を加えることによって、調理スタイルあるいは食事のスタイルそのものが大きく変化する可能性があります。

そこでは、単に効率化が図られるだけでなく、反対に時間と手間をたっぷりかけるという選択肢が生まれるかもしれません。さらには単に調理スタイルの変革にとどまらず、食材の輸送や破棄といった社会的な課題の解決にもつながっていきます。

一方日本では、女性の社会進出が他の先進国よりも遅れているとされ、家庭内で御家事の分担や、家事労働時間の短縮などが求められています。ライフスタイルが多様化していくなかで、日本発のFoodTechがもっと誕生しても不思議ではありません。

執筆者:野口 瑶(Digital Innovation Lab)、高橋ちさ(ジャーナリスト)

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