インドの牛乳生産がピンチ?スタートアップ企業 Stellapps Technologies が取り組む生産拡大策

2017.12.26
リスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

朝食はパンにミルクという人は少なくないでしょう。じゃあ質問です。「世界最大の牛乳生産国はどこでしょうか?」。アメリカ? それともフランス?正解はインドです。13億人が暮らすインドは、世界最大の牛乳の生産国であり世界最大の牛乳消費国でもあります。そのインドで牛乳の生産量が伸び悩んでおり、需要に追いつかなくなる懸念が高まっています。この課題をテクノロジーで解決しようとしているスタートアップ企業があります。どんな仕組みで解決するというのでしょうか。

インドにおける牛乳の年間生産量は、1億5500万トン。これは日本の20倍に相当します。インド人にとって牛乳や乳製品は重要なたんぱく源なだけに、牛乳や乳製品を安定的に供給することはとても重要です。しかも、インドの牛乳生産者の大多数は、飼っている牛や水牛の数が5頭以下という零細酪農家だとみられており、いかにして牛乳の生産効率を高めるかが大きな課題になっています。

この課題解決に取り組むのが、インドのスタートアップ企業、Stellapps Technologiesです。技術系大学の最高峰であるインド工科大学(IIT)の卒業生らが2011年に設立しました。米AT&Tや英ボーダフォンといった通信事業会社や、米Cisco SystemsなどのIT企業で経験を積んだうえでの起業です。

生乳の品質を可視化しメーカーへの販売価格に反映

Stellappsの顧客は、牛乳・乳製品を生産する酪農家や協働組合です。彼らの生産性を高めることをミッションに掲げ、「SmartMoo」と呼ぶ牛乳の生産から乳業メーカーへの販売・流通までをカバーするサービスを開発し提供しています。SmartMooは、IoT(モノのインターネット)やビッグデータ、クラウド、モバイルなどのデジタルテクノロジーを基盤に採用しています。

まず、牛乳・乳製品市場を概観しておきます。牛乳や乳製品をつくるための一歩は、牛乳の原料に相当する生乳を搾乳すること。酪農家は毎日のように搾乳した生乳を生乳調達センターに届けます。生乳調達センターに集められた生乳は乳業メーカーへ輸送されます。乳業メーカーは生乳を牛乳や乳製品に加工し、最終ユーザーに届けます。

SmartMooの中核を担うサービスが、「smartAMCU(smart Automated Milk Collection Unit)」です。酪農家が搾乳した生乳が集まる「生乳調達センター」で利用するもので、センターのスタッフが分析機でチェックした生乳の品質を評価し、それに応じて1リットル当たりの販売価格を算出します。

smartAMCUが算出した価格は調達センターのタブレット端末に表示されるので、酪農家は、調達センターに生乳を届けた段階で、その日に搾乳した生乳の品質と販売価格を確認できます。つまり、酪農家が生産した生乳の品質を可視化すると同時に、価格の決定プロセスを透明にしたのです。従来は、生乳の品質をチェックする仕組みがなく、その価格は品質に関係なく同じだったと言います。smartAMCUは、酪農家の品質へのモチベーションを高める役割も担っているわけです(動画1)。

動画1:「smartAMCU(smart Automated Milk Collection Unit)」の紹介ビデオ(8分47秒)

データに基づく酪農経営を可能に

このsmartAMCUを核に、Stellappsは関連する複数のサービスを展開しています。中・大規模酪農家向けの「SmartFarms」が、その1つで、牛の健康状態を把握し、生産品質や生産量を高めるための情報を提供します(動画2)。

動画2:「SmartFarms」の紹介ビデオ(7分38秒)

SmartFarmsは、(1)「アクティビティメーター」、(2)「HMS(Herd Management system)」、(3)「ミルクメーター」の3つのシステムで構成されます。アクティビティメーターは、牛の足に取り付けるセンサーによって、牛の健康状態をモニタリングするための仕組みです。

HMSは、飼育している牛の群れ全体の健康記録を管理するための仕組みです。Herdは「群れ」の意味です。HMSが管理する牛の健康状態は、獣医がインターネット経由で参照できるようになっています。

ミルクメーターは、自動搾乳機によって搾乳作業を機械化すると同時に、搾乳した生乳の温度や量を測定します。一頭一頭の搾乳量を管理できるため、酪農家は牛ごとに歩留まりを把握できることになります。またミルクメーターは牛が摂取している餌の量も可視化します。

いずれのデータもクラウドに集められ、そこでデータを分析します。SmartFarmsが提示する情報を参照することで酪農家は、牛の飼育に投じた費用に対する効果を詳しく把握できるため、データに基づいた経営を可能にしています。

生乳を低温保存するためのタンクをIoTで管理する「ConTrak」という仕組みもあります。搾乳した生乳の温度は、牛の体温とほぼ同じで温かく、そのままでは、凝固したり酸っぱくなったりしてしまいます。そのため酪農家は、生乳を低温で保管します。ConTrakでは、そのタンクの温度を事務所からPCやモバイル端末でモニタリングできるため、タンクの管理作業を軽減し、生乳の品質を保ちます(動画3)。

動画3:「ConTrak」の紹介ビデオ(7分)

販売代金の電子決済や牛の保険までも提供

Stellappsは金融関連サービスも提供しています。その1つが「AgRupay」です。酪農家が、生乳を加工業者などに販売した時点で支払いが得られるようにした電子決済サービスです。

「MooKare」という牛の保険のスマートフォン用アプリケーションも提供しています。牛は酪農家にとって大切な資産です。MooKareでは、牛の管理データを使って酪農家が保有している牛の死亡率や予測収量を計算し、それに基づいて保険料を設定します。保険料の請求と支払いもMooKare上で処理できます。

現在、地球規模では人口増加が続いており、それだけの人口を支えるための食料を安定的に生産・調達する仕組みの構築は喫緊の課題です。その課題解決に向けたサービスを開発・提供しようとするスタートアップ企業も複数社が存在します。ただ、それらスタートアップ企業が開発するサービスは、特定の課題に焦点を当てたものであることが少なくありません。

それに対し、Stellappsの取り組みは、酪農家の経営を支えようとの考えが貫かれ、結果としてさまざまな周辺サービスの開発・提供につながっているようにみえます。同社の姿勢やサービスには、課題解決型サービスを考える際の有用なヒントになりそうです。 

執筆者:岸 亮太郎(Digital Innovation Lab)、小林 秀雄(ITジャーナリスト)

EVENTイベント