データの取得を目的化しない、中堅・中小工場におけるIoT成功の秘訣とは

2018.03.08
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工場にIoT(モノのインターネット)を導入し自動化や最適化を図る“スマート工場”への注目が高まっています。一方で、中堅・中小企業にとっては、IoTを実現するための設備投資や、ソフトウェア人材の確保といった課題もあります。スマート工場への取り組みで先行する企業は、どのような考え方で取り組み、成功させているのでしょうか。

そんな先行企業の取り組みを直接に聞く機会がありました。先頃開かれた『スマート工場EXPO』(主催リード エグジビション ジャパン)における「中小企業のスマート工場化最前線!」という講演がそれ。愛知県碧南市に本社を置き自動車用部品などを生産する旭鉄工と、東京都青梅市でパイプ加工などを手がける武州工業それぞれの社長自らが、それぞれの取り組みについて語りました。両社が成功している秘訣を紹介します。

旭鉄工:カイゼンのための調査・記録に現場は息切れしてしまう

まずは旭鉄工の取り組みです。同社の代表取締役社長である木村 哲也 氏は、「現在当社には80のラインがあるが、IoTの活用により出来高向上率は平均1.34倍になった。設備投資額は4億円、労務費も年間1億円をそれぞれ削減できている」と胸を張ります。

同社がIoTを導入するきっかけになったのは、「カイゼン活動の推進」(木村氏)のため。製造業におけるカイゼン活動は、ある意味“当たり前”であり、規模の大小を問わず徹底されている取り組みのはず。しかし木村氏は、「さらなる費用削減やカイゼンのスピードアップを図ろうとしたが最初はうまくいかなかった。現場の調査に時間や手間がかかってしまうからだ」と当時を振り返ります(写真1)。


写真1:旭鉄工の代表取締役社長である木村 哲也 氏

たとえば、カイゼンツールの1つである「生産管理板」。生産の計画数と実績値の比較や、ラインが停止した際の時間と理由などを記録するための文書です。ですが木村氏は「トップが『書け、書け』というのは簡単だが、現場がこれを書き続けるのは簡単ではない」と言います。

なぜなら、「複数のラインのカウンターを時間ぴったりに読み取るのも難しければ、停止時間も『大体何分』」といった書き方になったりストップウォッチを使っても正確に測れなかったりする。生産数や停止時間の調査と手間で、しばらくすると現場が息切れを起こしてしまう」(同)からです。

IoTを使ったモニタリングは“安い・速い・簡単”に

そこで木村氏が目を付けたのがIoT。調査と記録をIoTを使って自動化しようと考えたのです。最初は、市販されているシステムの導入を検討しますが、「システムの規模や価格が中堅・中小企業には見合わなかったり、使いにくかったりする」(木村氏)ため採用に至りません。結果として、自社での開発を決意しました。

具体的には、旋盤に磁石を取り付け、モノを1つ生産するとパルスを1つ出すスイッチなどを電気街などで購入した部品を使って手作りしました。結果的には、古い設備からでも生産個数に関係する情報を取得できる仕組みが完成しました(動画1)。

動画1:旭鉄工が自社開発した生産ラインのデータ取得の仕組みを紹介するビデオ(4分57秒)

スイッチなどを高機能化しなかったのは、「カイゼンの狙いはただ1つ、生産個数の向上にあった」(木村氏)からです。生産個数は「ラインが動いた時間 ÷ サイクルタイム」で算出できます。つまり、次の2つの条件を満たせれば生産個数は伸ばせるのです。

・ラインの稼働時間を伸ばす = ラインの停止時間を減らす
・サイクルタイムを短くする

データだけではカイゼンできない、対策は泥臭く徹底的に

しかし木村氏は、「データが見えるだけでは問題は直らない」と断言します。「IoTでデータを取得することは目的ではなく手段」(同)とも言います。実際、旭鉄工でもIoTを使ってデータの取得を自動化しましたが、その後には地道なチェックとカイゼン作業が待っていました。そこでは、次の3つの対策を打ちました。

・ミーティングは毎日、必ず現場で実施する
・ラインの停止時間が長い順に優先順位をつけて対策を打つ
・100分の1秒単位でデータを取得し10分の1秒単位で改善する

こうしたカイゼンの結果、(1)生産個数が上がっても人件費が上がらない、(2)生産個数を上げる際の効率を高めることで設備投資を節約する、といった効果が顕著に現れてきたそうです。それが冒頭の「設備投資4億円、年間労務費1億円の削減」というわけです。

武州工業:全社員がタブレットからあらゆる情報を入力

武州工業は、東京都青梅市に本社をおき、金属パイプや樹脂の加工、および自動制御装置の制作などを手がけています。同社のデータ取得における最大の特徴は、全社員が使っているタブレットにあります。代表取締役の林 英夫 氏は、「業務日報から検査シートまで、あらゆるデータをタブレットから入力している。全社員が使っているためタイムカードの入力にも使える」と話します(写真2)。


写真2:武州工業 代表取締役の林 英夫 氏

林氏によれば、手書きで検査データを取得する場合のデメリットは「紙に記入するとなると、1日の終わりに全データを書き込むようなことをしてしまう」こと。これでは、「ロットの始まり、中間、終了と、それぞれのデータを取らなければならない時に正確なデータが取れない」(同)のです。

そうした作業を武州工業では、タブレットに入力していきます。記入時刻はタイムスタンプ機能により自動的に記録されます。さらに「データを入力しなければ次の作業指示が表示されないように設計することで、自然と検査が終了するたびにデータを取得するようにできる」(林氏)とも言います。

データ取得は手入力だけではありません。左右に動く機械の動きを記録する際には、万歩計のようなアプリをインストールしたiPod Touchを機械に取り付け、左右の動きを自動的にカウントする仕組みなども導入しています。市販製品をうまく組み合わせることで、データ取得の省力化・確実化を図っているのです。

種々のデータを効率良く取得している武州工業ですが、その中でも林氏は「ラインの停止時間には注目している」と明かします。そこから「どこで止まったのか、なぜ止まったのかを現場のスタッフと共に検証しカイゼンを図る」(同)そうです。

システムエンジニアを現場に、プログラムだけで解決しようとしない

武州工業の今を支えるタブレットシステムですが、同システムを開発するために採用したソフトウェアエンジニアに対して林氏は「3年間、現場で勤務してもらった」と話します。「現場を知らないと、カイゼンをしようとしたときにプログラムだけで解決しようとしてしまうから。それではシステムが複雑化してしまう」(同)のが、その最大の理由です。

現場を知ったシステムエンジニアが作ったシステムは、「よりシンプルで、必要な情報だけを得られるような設計思想になった」(林氏)と言います。情報取得をシンプルにすべき理由について林氏は、「情報を解析するためにデータをコンピューターに入力するのだ。使い捨てにするデータをシステムに入力する必要はない」と強調します。

現場の仕組みやノウハウの外販に進出

データに基づくカイゼンに取り組む旭鉄工と武州工業。両社にはもう1つの共通点があります。それは、自社での取り組みから生まれたカイゼンのためのシステムをパッケージ化し外販にも乗り出していることです。旭鉄工は「製造遠隔ラインモニタリングサービス」として、武州工業は「 BIMMS(BUSYU Intelligent Manufacturing Management System)」として、自社のシステムを販売。旭鉄工は、コンサルティングも手がける新会社i Smart Technologies(iSTC)も設立し、木村氏が代表を兼ねています。

木村氏によれば、「iSTCの顧客層は中小企業が中心。データを取得しても、その見方がわからない企業も少なくない」。ただデータが集まってくれば、「データ取得以前は直感的に『8〜9割は稼働している』と考えていたラインの稼働率が5割程度しかなかった企業もある。しかし同社は、そこからカイゼンに取り組み『残業ゼロ』の計画を練り上げた」(同)と明かします。

一方の林氏は、「受発注に今も、メールやEDI(電子データ交換)、FAXや電話など様々な形式が利用されている。データ形式がバラバラで、バックヤードの生産性を大きく下げている」点を苦慮しています。

ただそれも、ISDNのサービス終了に伴い金融分野のEDIが新しく切り替わることから、「そうしたタイミングで受発注データをクラウドに持つようにすれば、データの取り込み作業の自動化が進められる」(林氏)と期待します。武州工業としてもBIMMSのクラウド化を進めており、「BIMMS on AWS(仮称)」としての展開を始めています。

両社は、自社でのカイゼン活動をベースに、そのために必要になるデータや不要なデータの違いや、データの取得方法といった独自のノウハウを取得しました。両社が提供するシステムを使う/使わないは別にしても、両社の取り組み姿勢に学べば、これからのビジネスを考えるには、何が必要で、そのために何をテクノロジーによって自動化し、私たちは何を考えるべきかのヒントが得られそうです。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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