センサーなどをクラウドに結ぶSORACOMの事例が示す「IoTはすでに本番」

2017.06.20
リスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

センサーで得られたデータの活用を目指すIoT(モノのインターネット)における課題の1つが、センサーとクラウドを結ぶネットワーク。消費電力が低い「LPWAN(Low Power Wide Area Network)」が注目されるのも、そのためです(関連記事)。そんなIoT用途のネットワークサービス「SORACOM」を展開するベンチャー企業、ソラコムが海外進出を含め事業を拡大、活用事例も次々と誕生しているといいます。

初期投資が大きい通信事業のための仕組みをソフトウェアで実現

ソラコムは2015年創業の、まだ若いベンチャー企業。ですが既に、米国と欧州、シンガポールにオフィスを開設し、海外市場に向けても日本発のサービスを提供しています。なぜ、これほどまでに急成長できているのか。その裏側について、同社代表取締役社長の玉川 憲 氏が、東京ビッグサイトで5月に開かれた「第7回IoT/M2M展【春】」(主催リードエグジビション ジャパン)の特別講演に登壇し、自ら説明しました(写真1)。


写真1:SORACOMの利用実績などを説明するソラコムの玉川 憲 代表取締役社長

玉川氏は、日本IBMの東京基礎研究所を経て2010年、クラウドサービスAWS(Amazon Web Services)を提供するアマゾンデータサービスジャパンにエバンジェリストとして入社し、AWSの技術統括として日本市場の立ち上げを牽引してきました。その過程で、「IoTの発展をうながそうにも、モノとクラウドをつなぐセキュアなデータ通信の仕組みがいことに気付いた」(玉川氏)のです。そこからソラコムを起業し、2015年9月にはIoTのためのデータ通信サービス「SORACOM Air」の提供を開始しました。

SORACOM Airは、NTTドコモやなどの携帯通信網を利用するデータ通信サービスです。データ通信 用のSIMカード 「Air SIM」 を使ってデータの収集やセンサーデバイスの管理などを可能にします。一般に通信事業を手がけるには通信装置をはじめ膨大な初期投資が必要です。これに対しソラコムは「できるだけ安価で、かつセキュアな通信を提供するために、基地局はNTTデータなど携帯キャリアの仕組みを、バックエンドのシステムはAWS上にソフトウェアで実現することで“バーチャルキャリア”になることを選択した」(玉川氏)のです。

さまざまな用途で活用事例が次々と登場

SORACOM Airのサービス開始に伴い、活用事例も次々と登場しています。実証実験段階で足踏みしているとの声も聞こえるIoTですが、玉川氏は「ここ1年で多くの事例が出てきています。IoTは既に実証実験の段階から本番活用への進んでいる」と強調します。しかも、多くの事例の中には「コスト削減や効率化はもとより、売り上げを伸ばすための取り組みも始まっている」(同)ようです。玉川氏が挙げた事例のいくつかを紹介しましょう。

まずモノの動きを管理する用途では、東京・文京区の日の丸自動車興業が、バスのGPS(全地球測位システム)データをSORACOMで収集し、利用者のスマートフォンや周辺施設にあるディスプレイなどにバスの到着時刻などをリアルタイムに通知する仕組みを構築しています。福島県会津若松市のデザイニウムは、除雪機の位置情報を管理するためのサービスにSORACOMを利用しています。北海道帯広市のファームノートのように、飼育している牛の動きを管理するために利用しているケースもあれば、欧米ではワインのコンテナ管理の仕組みに使われてもいます。

遠隔監視の用途では、個人用の電動車を開発・販売するベンチャー企業のWHILLが、SORACOMを使って、車が発するデータ通信量とバッテリー残量などを収集し、利用者に知らせする仕組みを実現しています。京成電鉄が踏み切りを遠隔監視していたり、太陽光発電設備を遠隔監視したりしている例があります。トーア紡コーポレーションや日置電機など工場の見える化に取り組むケースも少なくありません。本サイトでも紹介したコマツのスマートコンストラクション(関連記事)にもSORACOMが利用されています。経験が少ない建機のオペレーターでも高い精度で作業を進められる仕組みを実現するために、ITで武装した建機とクラウドをSORACOMがシームレスに接続しています。

顧客の声を元に新たなサービスを早期に開発

SORACOMを使った種々の事例が立ち上がっている背景には、ソラコムのサービス提供における開発方針があります。その1つは、「顧客からのフィードバックを元に求められているサービスを迅速に開発すること」(玉川氏)です。事実ソラコムは「2015年のサービス開始から、これまでの約1年半の間に、新しいサービスを12種類開発し提供しているほか、新機能を38回発表」(同)しています。つまり、2週間に1度のペースで新しいサービスを投入しているのです。しかも、バーチャルなキャリアであることを生かし、「運用コストをできるだけ削減し、それを顧客に還元する」(同)という方針ももっています。

例えば、顧客の閉域網に接続する「SORACOM Canal」は、「セキュアな閉じたネットワークを構築したい」という顧客ニーズに応えたサービス。「SORACOM Direct」は、AWS以外のクラウドやデータセンターに専用線で接続するためのサービスです。インターネットVPNで接続する、より安価な「SORACOM Door」も提供しています。さらに、ネットワーク層のサービスに加え、アプリケーション層のサービスも、顧客ニーズから開発しています。「SORACOM Beam」が、その1例で、データをクラウドで集中的に管理し、必要な場所への転送を可能にします。

2017年2月には、LPWANのための一規格である「LoRa」に対応した「SORACOM Air for LoRaWAN」を日本初の商用サービスとして投入しました。これまでの携帯電話網を利用するサービスに対し、LoRa準拠のデバイスモジュールとゲートウェイを利用することで、センサー側の電力消費量を削減します。さらに2017年5月には、通信頻度が低い用途を対象にした「Low Data Volumeタイプ」をグローバルで提供し始めました。例えば、機器装置の死活監視や在庫確認など1日1回に通信するだけなら月額利用料は約45.6円。人や車の位置の管理などに15分に1回、通信しても月額利用料は約77円です。

日本発のサービスを使ったIoTサービスの創出を期待

もう1つ、ソラコムが重視しているのがパートナー企業とのエコシステムです。玉川氏によれば「IoTはテクノロジーの総合格闘技」。すなわち「デバイスや通信、クラウド、セキュリティなど必要なテクノロジーを1社だけでは提供できない」(同)ビジネスです。そこでソラコムが用意するのが「SORACOM Partner Space(SPS)」と呼ぶ共創の場です。300を超えるパートナー企業が集まり、多種多様な顧客のニーズに対するソリューションを開発しています。「Partner Hosted Adaptor」は、SPSの成果の1つで、パートナー各社のクラウドサービスとSORACOMの接続を可能にします。

玉川氏は、「かつて、クラウドが登場し、それを活用することで多くのWebサービスが誕生した。今後は、SORACOMを活用することで多くのIoTサービスが生まれることを願っている」と話します。海外発のサービスが多いIT分野にあって、日本から誕生したSORACOM。そのサービス開発の元になっているのが日本企業の取り組みであるならば、日本企業のIoTへの取り組みは、海外企業ほど派手な宣伝はされていませんが、玉川氏が指摘するように確実に本番環境へと進んでいるのだと言えそうです。

執筆者:中村 仁美(フリージャーナリスト)

EVENTイベント