米カーネギーメロン大発の注目ベンチャー6社、地域別コミュニティ「SUKIYAKI」のピッチイベントから

2017.09.13
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様々なベンチャー企業が日々、生まれる米国シリコンバレー。人と人の結びつきを大切にしながらネットワークを形成する文化が、その原動力の1つだと筆者は考えています。当地では新たなネットワークを求めて人々が活発に活動し、多様な「Meet Up(ミートアップ)」が連日開催されています。Meet UPを企画・運営する有志のコミュニティもたくさん存在します。「SUKIYAKI」も、その1つ。今回は、8月24日に開かれたピッチイベントの模様を報告します(カバー写真参照)。

Meet UPの内容や目的、レベルは千差万別です。しかし、出張などで訪れた人はもちろん、現地に勤務する人にとっても、当地の人たちが集うMeet UPにいきなり参加するのは心理的に敷居が高いかもしれません(現実には一定の英語力があればそうでもないのですが)。そうした中でSUKIYAKIは、シリコンバレーに拠点を置く日系企業の事業開発にフォーカスして活動しているコミュニティです。SUKIYAKIのようなコミュニティを足がかりにすれば、ユニークな企業や技術、そして良い人・良い人脈に出会えるのではと思います。

SUKIYAKIは日本企業や人が集う地域別コミュニティ

シリコンバレーにある様々なコミュニティの形態として、国や地域を同じくする者同士の集まりがあります。インドや中国、東欧諸国といった地域別コミュニティです。SUKIYAKIはその日本版。「シリコンバレーでイノベーションを起こしたいと考える日本人同士が横でつながる場」として、2012年に設立されました。

料理の「すき焼き」は、牛肉やしらたき、春菊、豆腐などバラエティに富む食材が1つ鍋の中で調和し、ほかにない味を創り上げています。SUKIYAKIも多様に、様々なバックグラウンドの人材が集り、ユニークな何かを作り出すのが目的です。コミュニティの名前としては、なかなか上手いですね。設立者であり現在の代表を務めるのはDeloitte Tohmatsu Venture Supportの木村 将之さん。「私自身、シリコンバレーに来た当時は多くの方に助けてもらい、何とか活動を軌道に乗せることができました。その経験から、新たな土地で挑戦する日本人同士が互いに貢献し合いながら高めあう関係や環境が必要と考え設立しました」と話します。

過去のイベントには数多くの企業が参加しています。朝日新聞や、日本経済新聞、KDDI、NTTコムウェア、パナソニック、日立製作所、富士通、NEC、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、スズキ自動車、三菱自動車、住友商事、丸紅、キヤノン、オリンパス、ニコン、楽天などです。2016年には、クラウドサービスを提供する旧NiftyとIoTプラットフォームを提供するスタートアップ企業のModeによるアライアンスをはじめ、3件のビジネスがSUKIYAKIから生まれたとのことです。

ピッチイベントには6社が登場

さて8月24日に開かれたピッチイベントです。ピッチイベントは短時間で企業や個人が自らを売り込む場。今回は6社が登壇し、プレゼン5分+質疑応答5分で進められました。登壇者はすべて、アメリカ屈指の工科大学であるカーネギーメロン大学(CMU)の卒業生でした。こうした大学とのネットワークもイノベーションのための重要なファクターですが、それは別稿に譲ります。

ピッチイベントの面白い点は、いかに短時間で伝えるべきことを伝えるかや、聴衆からの質問と応答にもありますが、以下では登壇企業に焦点を絞って紹介します。面白さはぜひ現地で体感していただき、「ピッチイベントに参加すればこんな企業と出会えるんだ」という事実を知っていただければと思います。

ビッグデータ分析サービスのxSeer

xSeerは2016年設立の、まさしく生まれたてのスタートアップ企業です。にもかかわらず既にビッグデータの活用に向け、ユーザーが直感的に理解し分析できる、データを視覚化するソリューションをクラウド上で提供しています。大手企業からの引き合いも多く、インドのIT 大手のインフォシスやアラブ首長国連邦(UAE)のエミレーツ航空がビッグデータ活用に向けたツールの1つとして採用を決めているとのことです。

デモでは、サービスの一例として、各地域の収入や求職数、世代ごとの分布などをドット(点)の集積で表し、米国地図上に3次元で表して見せました(写真1)。ドリルダウンによるデータのズームも可能です。


写真1:xSeerのデモ画面。3次元でも簡単に表示できる

自動運転用の高精細3D地図を作るexplorer.AI

自動運転技術は今、自動車メーカーはじめ多くの有力企業が研究開発を進める分野です。その実用化に欠かせないのが高精度の特殊な地図です。そこに着目したスタートアップ企業がexplorer.AIです。道路を走行する車のデータを集め、そこから自動運転車用の超高精度の3次元地図を生成するソリューションを開発しています。現時点はテスト段階であり、2020年以降に実際に車のデータを収集していく予定です。

自動運転は現在、部分的に自動運転ができる「レベル2」の段階。その先のレベル4(高度自動運転)やレベル5(完全自動運転)の実現には、explorer.AIが持つようなソリューションが不可欠です。同分野に取り組む企業は多数あり、explorer.AIが成長できるかどうかは分かりませんが、自動運転車の発展・普及に必要な技術であることは間違いないでしょう。

高精度の音声認識に取り組むCapio

米国では既に「Amazon Echo」や「Google Home」などのスマートスピーカーが普及しています。日本にも今秋には、各社が参入を計画しています。ただ米国の利用者調査では「話した言葉をもっと認識してほしい」との希望が45%近くに上っています。音声認識精度の向上が今後のカギになりますが、そこに着目したのがCapioです。英語、日本語、韓国語の3カ国語を対象に音声認識ソリューションを提供しています。

ピッチでは「競合製品よりも高い音声認識率を誇り、ノイズが入っても正確な認識が可能」と強調していました。CMUで培ってきた研究を基に、前例のない精度・信頼性を実現するエンジン(特許取得済み)を開発できたからとしています。ターゲットはコールセンター市場。AI(人工知能)による効率化の動きが活発化しています。AIによる分析・判断のカバー率を高めるためにも、まずはCapioが提供するような、より正確な音声認識が求められます。今後注目の1社と言えるかも知れません。

Excelのタスクを自動化するModelMap

スプレッドシート(Excel)の手動タスクを自動化するソフトウェアを提供するのがModelMapです。自動運転のような派手な製品・技術ではありませんが、AIなどによる業務の自動化が進んでもスプレッドシートを用いる作業はなくなりません。その作業時間を大幅に短縮できれば、会計コンサルティング会社や該当部門にとっては実用的なソリューションになります。

ModelMapの仕組みは、計算モデル作成を自動化することで手動での計算式作成の手間を省きます。作成されたモデルをパーツとして再利用することもできます。これを加速するためGitHubのようなコミュニティを構築し、使いたい計算モデルをクラウドからダウンロードできる仕組みも整備しています。予定販売価格は1ライセンスが年間900ドルとのことです。なお、ModelMapの創業者は日本人のJohn Kawai氏です。

電気バイクを開発するVoltu Motor

Voltu Motorは電気バイクの「VOLTU V1」を開発するスタートアップです。米Harley Davidsonや伊Ducatiといった老舗のバイクメーカーが開発する電気バイクと比べ、同等の価格で加速性や走行距離といった性能で優れているとしています。時速100kmに到達するまでの時間は3.9秒、最高時速は180km、1回の充電で走行できる距離は250km(都市内利用時)とのことです。

VOLTU V1はフロントに7インチのタッチスクリーンを搭載しています。ダイナミックでスポーティなデザインにもこだわっており、「他社製電気バイクのデザインは好きではなかった」と、聴衆からも、そのデザイン性を評価する声が挙がっていました(写真2)。


写真2:Voltu Motorの電気二輪車「Voltu V1」(同社ホームページより)

MRIを家庭で利用可能にするUltrascanguide

医療機器と言えば、大がかりで高額なのが通り相場。Ultrascanguideは、その常識を破壊し、小型で安価なMRI(磁気共鳴画像)装置を開発しています。創業者のTed Selker博士は、MRI装置を家庭内でも使えるよう、小型化・安価化に向けた開発を進めています。ピッチでは、手作りのMRIデバイスを用いたデモを紹介しました(写真3)。


写真3:熱弁するUltrascanguideのTed Selker博士(右)と、手作り感のあるMRI装置

MRIは、強力な電波を使って体内にある水分に作用して断層を撮影する仕組みで、脳や脊椎、膝、肩などのスキャンに適しています。電波を利用するため被爆のリスクがありません。例えば、Ultrascanguideが開発するような簡易MRIがあれば、足を痛めれば自宅でスキャンし、その場でデータを確認したり、リモートで病院に送り遠隔治療を受けたりが可能になります。デモされたプロトタイプは手作り感が否めませんでしたが、今後の医療革命につながり得る技術です。

SUKIYAKIを通じネットワークを拡大し貢献する

紹介したピッチイベントには50人強が参加しました。小規模な会場だったので立ち見が出るほどでした。ピッチ後には当然、登壇したスタートアップ関係者と参加者、あるいは参加者同士のネットワーキングが活発に行われました。話を聞いただけで帰るのではなく、むしろ、終わった後の雑談が大事と言わんばかりです。

新たなビジネス創出を目指しシリコンバレーに進出する日本企業は増え続けています。ですが当地では、大手でも日本のように会社の名前は通用しません。日系企業同士が協力し合い高め合う“場”としてのSUKIYAKIは、その意味では頼もしい存在でしょう。ここを足がかりに他のコミュニティにネットワークを広げられるからです。

もちろん出張ベースで日本から訪れた際も、SUKIYAKIの活動に注目しておけば、そこから様々な活動を広げていけます。いずれにせよ、シリコンバレーの地でローカルの人々が作り上げてきたコミュニティを、もっと上手く活用し貢献し合えるようになれば良いですね。

執筆者:菅田 純登(米国富士通研究所)

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