シリコンバレーの視察旅(後編)、ベンチャーから老舗企業までがイノベーションに挑む

2017.08.24
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シリコンバレー視察旅の最終回は、訪問した企業のイノベーションに挑む姿をお伝えします。ベンチャー企業のSight Machineと1982年創業のCADソフトウェアベンダーのAutodesk、IoT製品を展示販売するb8ta storeです。さらに“食”にかかわるイノベーションとして、無人のランチボックス販売店のEatsaと、植物由来のハンバーガーを販売するImpossible Burgerを紹介します。

米GEと資本提携も結んだSight Machine

米Sight Machineは、製造現場で発生する膨大なデータを情報に変換するソリューションを開発しているB2B(企業間)のベンチャー企業です。2012年に、YahooやTesla Motors、Cisco Systems、IBMといった米IT関連企業の出身者が集まって創業しました。社員数は40人ほどですが、米GE Venturesなどのベンチャーキャピタル(VC)から合計3000万ドルの投資を得ており、米GEとは資本提携も締結する有力企業に育っています。


写真1:米Sight Machineのオフィス。きれいな環境で、軽食や飲み物コーナーもある

同社がターゲットにする製造現場では、生産設備を構成する機械や制御装置から多種多様で膨大なデータが発生しています。監視用のセンサーデータやカメラの画像データがあれば、資材や生産実績などERP(統合基幹業務システム)が扱うデータもあります。

しかし機械や装置が出力するデータは形式も項目もバラバラで、特定の工程の状況や製品の状態を人が知りたい形で把握するのは困難です。「つまりデータはリッチ(Data Rich)ですが、インフォメーションはプア(Information Poor)。これを『DRIP』と呼び、その解決を図るのがミッションです」と、Sight Machineの創業者兼CEOは説明します。

DRIPという課題に対し同社は、データを変換・準備するAIとモデリング技術、およびストリーミング分析、それに可視化技術を組み合わせています(写真2)。「例えば大手スポーツ用品メーカーは自社工場を持っていませんが、当社の技術を使えば、本社で製造現場のすべてをモニタリングできます。異常検出や最適化が可能になるのです」(CEO)。


写真2:下側がSight Machineのソリューション。上側はデータレイクを使う方法で限界があるとしている

これは、Industrial InternetやIndustry4.0で言われる「デジタルツイン」を実現するためのソリューションとも言えます。GEとの関係を聞くと、「GEでもデジタルツインを創り上げる道筋を描けていません。それを実現するのがSight Machineであり、だから投資してくれたのです」と説明してくれました。

新しい製造プロセスに焦点当てるAutodesk

米Autodeskは、CADソフトウェア「AutoCAD」で知られるベンダーです。1982年設立とソフトウェア業界では老舗の1社ですが、デジタル変革の動きに適応し、業績も株価も順調に伸ばしています。いったい、どうやったのでしょうか。まず示してくれたのが写真3です。コンセプト作りから設計、製造、販売へと流れる伝統的な製造プロセスを表しています。このプロセスに則れば、Autodesk製品のカバー範囲は主に設計(デザイン)のプロセスだけになります。


写真3:Autodeskによる伝統的な製造業のプロセス

しかし製造にデジタル技術が融合することで、設計は仮想チームによる共同作業になり、製造は3Dプリンターなどを駆使した「Additive Manufacturing(付加製造)」が加わります(写真4)。販売や運用段階でもモバイルやセンサーといった、いわゆるIoTにより、これまでは困難だったサービスの提供が可能になります。もちろん何を作るかというコンセプトの段階でも試行錯誤を繰り返せます。


写真4:Autodeskによる、これからの製造プロセス。コネクティッドサービスなどにより大きな価値を生み出す

実際、今日ではKickstarterのようなクラウドファンディングによって、投資力のない個人でもアイデアさえあればモノ作りが可能です。写真5はCADソフトウェアで設計し3Dプリンターで製造した刀ですが、熟練の職人の手による物としか思えない工芸品のようです。このほかにもAutodeskの展示室では、どうやって作ったのかすら分からない服なども見られました。現在のAutodeskは、このような新しいプロセスにフォーカスしており、だからこそ成長しているというわけです。


写真5:Autodeskに展示室に展示されていた刀。日本人の作品

製品が見られた時間に応じてメーカーに課金するb8ta store

b8ta Storeは、「Retail isn’t dead」を標榜し、個人消費者向けのIoTデバイスなどのハードウェアを展示・販売するショップです。米国だけで5店舗あります。今回、訪ねたのはPalo AltoのUniversity Aveという一等地にある店舗です。

陳列されているのは、鍵や監視カメラなどのホームセキュリティ製品や、玩具、小型ドローン、ペット用品、植物栽培器、VR端末など多彩。クラウドファンディングで開発・製造したユニークなものから大手メーカーの商品まで、100種を超える製品が整然と並んでいます(写真6)。パッと見では用途が分からないものも少なくないのですが、説明用のディスプレイによって確認できるようになっています。


写真6:様々な商品が整然と並ぶb8ta Storeの店内

当然ですが、すべての製品はネット経由でも入手できます。事実、同社もオンラインで販売しています。にもかかわらず一等地に店を構えてビジネスになるのでしょうか?

実はb8ta Storeの収入モデルは独特です。販売マージンのほかに、来店者が各製品を見た時間をカメラで測定し、それに応じて課金しているのです。店舗を“販売の場”としてだけでなく“広告の場”にも位置づけているわけで、いわゆるショールーミング(店舗で実物を確認しオンラインで購入する)を回避する作戦です。

定番的な製品なら見なくても買えますが、斬新で、ほかにない製品となると確かめたくなるはず(写真7)。この点で、いくつかある類似製品を手にとって比較検討できる店舗には存在価値があり、合理的かも知れません。「Retail isn’t dead」というフレーズは単なる強がりではないようです。


写真7:ハーブを栽培するための「Smart Herb Garden 3」。価格は99.95ドル

無人のファストフード店eatsa

視察旅行の最後に、食の世界でのデジタル技術の広がりを紹介しましょう。象徴的な店舗の1つが「eatsa」。「Better、Faster Food」をうたうファストフード店です。サンフランシスコやニューヨークにも店舗があり、ベジタリアン向けのランチボックス(弁当)を提供しています。特徴は無人であることによるスピードの速さ。店員はおらず、厨房ではロボットがランチボックスに食材を詰めているとのことです。

店頭にはiPadベースの注文端末があり、名前とクレジットカードを登録したらメニューで食べたいものを選びます。店内には壁にズラリと棚が並んでいます(写真8)。名前が表示された扉を開けると注文した商品を受け取れます。


写真8:eatsaの店舗外観(左)と商品を受け取るための棚

訪れた際は混雑していましたが、数分待っただけでランチボックスを受け取れました。出てきたランチボックスは、お椀型の容器の下部に麺や雑穀、スープが入り、上部に野菜類が盛られているだけで調理は不要なようです。厨房の様子は外部からは見えませんが、これならロボット化は難しくはなくアイデアの勝利でしょう。

完全に無人でもありません。棚からランチボックスを受け取る際に時間がかかり同時に注文した飲み物を取り出す前に棚の扉が閉じてしまった時は、係員が来て開けてくれました。オペレーションは改善途上の様子です。それでもスマホで事前に注文できることもあって、ヘルシー志向の忙しいビジネスパーソンのニーズを汲んだと言えるでしょう。10ドル以下で食べられる安価さもあって、当地ではマクドナルドのライバルになると目されているようです。

植物由来のパテで作ったImpossible Burger

「Impossible Burger」という珍妙な名前のハンバーガーも、わざわざ食べに行きました。「THE BURGER FORMERLY KNOWN AS PLANTS」という通り、小麦やココナッツオイル、ジャガイモなどの植物からパテを作り、しかも遺伝子を操作して作った酵母などによって肉の食感や味、肉汁を再現したといいます。開発したのはImpossible Foodsというスタートアップ企業で、Google VenturesやUBS、そしてMicrosoftの創業者であるBill Gates氏などから合計2億5000万ドルの投資を得ています。

訪れたのは「Umami Burger」という店舗。ベジタリアン向けバーガーとして提供していましたが、Impossible Foodsの目的は食糧のサステナビリティにあります。動物肉への依存には持続可能性に難点があり、そのカベを技術で打破したい考えです。普通のハンバーガーと食べ比べてみると、どちらも肉そのもの(写真9)。食感や味に確かな違いは感じられましたが、予備知識がなければImpossible Burgerが植物由来であることはまったく分からないでしょう。


写真9:Impossible Burger(左)と普通のバーガー。食味に違いはあるが、植物由来とは思えない。Umami BurgerのPalo Alto店の隣には独SAPが運営するインキュベーション施設「HANA House」がある

新しい発見がシリコンバレーには常にある

今回の視察旅行ではほかにも、米Intel本社にあるインテル博物館やシリコンバレーの名所の1つであるコンピュータ歴史博物館、アメリカンフットボールチーム「49ers」のホームグランドである「Levis Stadium」、米Targetが運営する個人向けIoTデバイスの展示・販売店「OpenHouse」なども見学しました。

このうちLevis Stadiumは2014年7月に開場した最新の多目的競技場です。シリコンバレーの中心にあるだけあってIT化が売りの1つ。競技場に、いかに足を運んでもらうか、再来場してもらうかという観客の“エンゲージメント”に工夫を凝らしています(関連記事『スタジアムをプロフィットセンターに、デジタル化で来場者に最高の体験を提供』。

またシリコンバレーにあるMicrosoftの事業所では、駐車場を監視するロボットが稼働しているのを高速道路から見ました。サンフランシスコ市街では中国Ninebot製の自律一輪車「One S2」を使っている人も見かけました(扉写真参照)。こうした街中の風景1つとっても、シリコンバレーにはネットだけでは得られない新しい発見が常にあります。時間を作って出かけることをお勧めします。

執筆者:田口 潤(IT Leaders)

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