スウェーデンが進めるキャシュレス社会、「現金お断り」のお店も

2016.12.28
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「携帯がお財布代わり」といった人が増えています。鉄道会社や小売業者が発行する電子マネーや携帯電話の決済機能が普及したほか、iPhoneの最新機種からは「Suica」なども利用可能になりました。こうしたキャッシュレス社会の先進国の1つがスウェーデンです。公共交通機関はもちろん、一般のお店でも「現金お断り」というところがあるそうです。一体、どんな暮らし方なのでしょうか。

現金では公共交通機関には乗れない

まずスウェーデンの首都ストックホルムが属するストックホルム県。同県の公共交通機関である「SL(Stockholms Lokaltrafik)」が運行する電車や地下鉄、バスには現金では乗車できません。交通機関専用のICカードである「SLカード」を事前に購入しておくか、スマートフォンに専用のアプリケーションをインストールしておく必要があります。SLカードは車内では購入できず、SLカードを持たずに乗車すると無銭乗車とみなされ、1200スウェーデン・クローナ(SEK、約1万5000円)の罰金を請求されます。つまり車内では現金を一切取り扱わないということです。

SLカードの使い方自体は、とてもシンプルです(図1)。カードは、駅に設置されている券売機やチケットオフィス、コンビニやスーパーで購入したり、残高確認やチャージしたりができます。乗車時は、駅やバス停にある青色のカードリーダーにかざすだけ。日本の鉄道系ICカードとほとんど変わりませんね。スマホ専用アプリ「SL-biljetter」を使うと、より簡単に利用できます。スウェーデンに住み個人IDを持っていれば、乗車賃は銀行カードまたは毎月の請求書で支払いを済ませられます。観光客などスウェーデンを一時的に訪問している場合は、銀行カードを選択できます。

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図1:ストックホルム県の公共交通機関「SL(Stockholms Lokaltrafik)」のホームページの例。公共機関による乗り継ぎを検索したりできる

現金決済を受け付けない店舗も

公共機関を降りて街中に出るとどうでしょう、街中のレストランや小売店には「現金お断り」の看板やポスターが貼ってある店舗もあります。そうしたお店で支払いをするには、クレジットカードのほか「Swish」「iZettle」といったモバイル決済の仕組みを利用することになります。

例えばSwishは、北欧の主要銀行11行が共同で開発したスマホ用の決済アプリケーションです(動画)。Swishに登録してあれば、お互いの携帯電話番号だけを使って友人や企業、団体の口座に送金ができます。利用登録時に、銀行のオンラインバンキングサービスを介して、携帯電話番号と銀行の口座番号を紐付けてあるからです。主要行による共同開発ですから異なる銀行への振り込みも可能です。2015年10月の時点で既にスウェーデンの全人口の30%以上がSwishを使用していました。

動画:「Swish」の紹介ビデオ

Swishなどのモバイル決済を支えているのが、「Bank ID」と呼ぶ電子IDカードです。スウェーデンでは出生時に個人識別番号が付与されます。日本でも利用が始まった「社会保障・税番号制度(マイナンバー)」が、これに相当します。この個人識別番号に氏名と電子証明書を統合したのがBank IDです。個人が本人であることはBank IDによって保証され、法的な拘束力もあります。

2016年11月時点では、Bank IDの運用には11行が参画し、700万人以上がBank IDを保有しています。スウェーデンの人口は約950万人ですので、保有率は70%を越えます。スウェーデンでの現金取引は国内全体の取引の2%ほどとされ、公共交通機関や街中の商店だけでなく、教会への献金などもカードやモバイル決済による支払いが定着してきているようです。

現金の流通量は10年間で45%の減少

Bank IDという決済のためのプラットフォームが存在することに加え、スウェーデンはEU圏にありながら、ユーロ通貨ではなく、独自の通貨制度を維持しています。このことも電子決済を推進しやすい理由の1つなのでしょう。キャッシュレス化の浸透により、実はスウェーデンのほとんどの銀行では、各支店で現金を扱っていません。地方に行けばATM(現金自動預け払い機)の撤去すら進んでいるようです。銀行にしても、電子通貨でやり取りすれば、現金の管理にかかるコストを削減できます。

結果、スウェーデン国立銀行(Sveriges Riksbank)の統計によれば、スウェーデンにおける紙幣の流通量は2007年以降、明らかに減少傾向にあります(図2)。また国際決済銀行(BIS:Bank for International Settlement)がまとめたデータによると、GDP比率で見た通貨流通量は、2006年の3.82%が2015年には1.73%と、45%も減少しています。

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図2:スウェーデンにおける紙幣の流通量の推移(左)と硬貨の流通量の推移(出所:スウェーデン国立銀行:Sveriges Riksbank)

日本のキャッシュレス化はどこまで進む?

スウェーデンと日本には、マイナス金利政策を導入しているという共通点があります。ただマイナス金利政策については、スウェーデン国立銀行は「インフレ率の引き上げであり,インフレ率がこれ以上下がるリスクを減少させるためである」としており、これがキャッシュレス化を進める要因ではありません。今回紹介したように、キャッシュレスの流れを作っているのが電子IDのBank IDの存在であることは間違いがありません。

Bank IDに含まれる個人識別番号と同じ日本のマイナンバーは、将来的には金融分野での利用も示唆されています。ですが、まだまだ社会インフラとしての存在感は高いとは言えません。またキャッシュレス社会に対しては、手数料あるいはスマホや携帯の通信量がかかることから低所得者層には不利益を与えるとの指摘もあります。日本におけるクレジットや電子マネーによる決済は、GDP比でおよそ1割程度とされています。スマホや各種ICカードなどによるキャッシュレス化の流れが強まる日本ですが今後、マイナンバーが整備されれば、さらなるキャッシュレス化の流れがでてくるのかもしれません。

執筆者:宮田 知幸(Digital Innovation Lab)、高橋ちさ(ジャーナリスト)

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