マラリア撲滅への一歩を、シスメックス事業開発担当者が語るアフリカ医療の現状と希望

2017.10.05
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「マラリア」と聞けば、アフリカなど海外の病気で、日本では無関係だと考えているかもしれません。しかし、温暖化が進み、日本を訪れる外国人の数も2020年には4000万人と達する見込みのなか、マラリアは決して他人事ではないのです。そのマラリアの検査装置ビジネスを開発しているシスメックスの小島 哲二 氏に、マラリアやアフリカの現状、将来の展望ついてDigital Innovation Labが聞きました。(インタビュアーは宮川 武=Digital Innovation Lab、文中敬称略)

検体検査装置ビジネスで海外売上が8割以上

宮川:シスメックスは、どんな事業を展開されているのかを教えてください。

小島:血液などの検体検査の機器や試薬を開発・製造しています。血球計数検査と尿沈渣検査、独シーメンスとのアライアンスによる血液凝固検査においては、世界ナンバー1のシェアを持っています。


写真1:シスメックス事業戦略本部プリンシパルプランナーの小島 哲二 氏

 シスメックスの売り上げの8割以上は海外ビジネスによるものです。日本の売上高は19%で、アメリカが23%、EMEA(ヨーロッパと中東、アフリカ)が26%、中国が24%、日本と中国を除くアジアパシフィックが8%です。

宮川:海外の売り上げが大きいのですね。富士通も電子カルテの分野では国内トップシェアですが、海外展開はこれからです。

 私は、1999年に日本で診療記録の電子化が法的に規制緩和されたタイミングに、日本初の電子カルテシステムを開発しました。近年は、電子カルテのデータを治療に活用したり、新たなヘルスケア産業につなげるための部署を立ち上げ活動していました。2017年4月からはSE(システムエンジニア)部隊の戦略を企画する立場になりました。

 小島さんご自身は、シスメックスで何に取り組んでおられますか。

小島:私はマラリア検査装置のビジネスを開発しています。

 マラリアは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)と結核に並ぶ3大感染症の1つです。年間2億1000万人が感染し、43万人が亡くなっています。感染者・死亡者の90%がアフリカで発生しています。マラリアに感染すると社会人は会社を欠勤し、子供は学校を欠席せざるを得ません。生産性に大きな悪影響をもたらし、年間約120億ドルの経済損失があるとされています。アフリカの経済成長を阻害する「貧困の疾病」と呼ばれています。

宮川:そこにシスメックスの血液検査技術が活かせるということでしょうか。

マラリアの感染テストに赤血球の分析技術で挑む

小島:はい。マラリア原虫は赤血球の中に入り込みます。マラリアのテストは現在、年間で約3億テストが実施されていますが、その半数は顕微鏡によるテスト、もう半分はRDT(Rapid Diagnosis Test)と呼ばれる迅速診断テストキットによるものです。RDTはイムノクロマト法を用いた抗原検出キットで、小さなキットに少量の血液を添加すれば、マラリアに感染しているかどうかが分かります。

 これに対しシスメックスでは、新たな検査装置を開発中です。赤血球を分析することで感染をテストします。この検査装置を第3のスタンダードにしたいと考えています。

宮川:RDTは低コストな検査方法のようですが。

小島:そうなのです。ですが、RDTではマラリアの陽性・陰性しか分かりません。シスメックスが開発中の装置では、マラリアのどの種に感染しているかや重症度合いなど複数のデータを取得できます。血液検査装置がベースなため、マラリアの結果だけでなく、例えばヘモグロビンの測定もできます。

 実はマラリアの原虫は、血中の鉄分を摂取します。ですので、マラリアに感染すると貧血を併発するのです。マラリアによる死者の多くが実は、マラリアと貧血の併発により重症化してしまうことで亡くなっています。貧血のデータもモニタリングできることが新しい装置の付加価値であり強みですね。

宮川:貧血も同時に測れれば、それは大きな価値になりますね。

小島:はい。さらに、そうした診断データを中央のデータベースに集め分析できれば、マラリア撲滅に向けた様々な戦略に活かせるのではないかと考えています。


写真2:検査データのビッグデータ解析を語るシスメックスの小島氏

 シスメックスは「SNCS(Sysmex Network Communication Systems)というIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の機能を持っています。検査装置とセンターサーバーを結ぶコミュニケーションサービスです。装置の各種情報をネットワーク経由で取得し、故障などが予測されればフィールドエンジニアと連携して予防的な保守・点検を実施し、トラブルの発生を抑制するプロアクティブなサービスに活用しています。当社の製品は、大量の検体を検査するという性質上、故障などのダウンタイム発生は大問題になります。SNCSは、故障を事前に予知し予防するための取り組みとして注目されています。

 このSNCSに診断内容も送り、ビッグデータで解析すれば、様々な分析ができます。ただ先進国では、個人情報の問題があり実現は難しい。一方でアフリカは、先進国ほど個人情報の取り扱いが厳しくありませんし、それにも増してマラリア感染対策として監視の必要性が高いので、診断内容もサーバー側で解析できるのではと考えています。

宮川:規制が少ないアフリカならではの事例が他にもありますか?

ドローンで検体を集め治療薬を送り届けアフリカの子供を守る

小島:はい。今はドローンでの協業を模索しています。コミュニティのヘルスワーカーと協力し、ドローンで検体を運び、検査室にある当社の装置で大量に検査し、必要な治療薬をドローンで送り届けるといったことができれば良いなと考えています

宮川:検体も薬も数量が限られれば比較的軽量ですから、ドローンとの相性が良さそうですね。

小島:シスメックスにとってのチャレンジは、装置の初期投資が必要なことです。しかし1回のテストのコストは高くはありません。いかに多くのテストを実施し、固定費を下げるかが重要です。ドローンを使って検体を集められれば大量の検体を実施できます。

 検査の速度も、顕微鏡では30分から1時間かかり、RDTは20分です。これに対し開発中の装置は1分で検査でき、先にお話ししたように様々なデータを分析できます。このメリットを生かし、健康な人も含めて検査をし、ビッグデータ解析により、疫学調査やアウトブレイク(パンデミック)対策、創薬といった分野に活かしたいと考えています。

宮川:素晴らしいですね。最後に小島さんの夢を聞かせてください。

小島:ドローンによる協業を模索しているのは、「医療のアクセスを改善したい」という想いがあるからです。冒頭でマラリアによる死者が43万人とお話ししましたが、その約70%が5歳以下の子供です。子供が学校欠席する最大の原因もマラリアなのです。私の夢は、アフリカに学校検診を定着させ、アフリカの子供たちが健康に毎日学校に通えるようにすることです。

宮川:私にも是非、応援させてください!ありがとうございました。


写真3:シスメックスの小島 哲二 氏(右)とインタビュアーの宮川 武

<プロフィール>
小島 哲二
シスメックス事業戦略本部プリンシパルプランナー
ソニーにてキャリアをスタートし、IT・Wireless領域のグローバルビジネスに従事。2000年から「VAIO」の事業推進に携わり、日本産業パートナーズへの事業売却に際し、ビジネス収束プロジェクトをリードし完了と共に退職。Amazon Japan PC事業部長に転じ、革新的な企業文化を体験。現在はアフリカを中心とするLow Middle Income Countries (LMICs) 向け事業開発にチャレンジしている。

インタビュアー:宮川 武(Digital Innovation Lab)

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