“空飛ぶクルマ”に挑む米国のTerrafugia、垂直離着陸機ではボーイングやUberと競う

2018.02.06
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地上では自動車として走り、飛行場に着けば畳んでいた翼を広げ飛行機に変身する−−。そんな“空飛ぶクルマ”の実用化に向けてスタートアップ企業がしのぎを削っています。米国のTerrafugia(テラフギア)も、その1社。同社は、都市部の新たなモビリティとして注目される垂直離着陸(VTOL)機も開発しますが、そこには大手航空機メーカーやUberなども参入を目論んでいます。Terrafugiaは、どんな戦略で空飛ぶクルマを開発しているのでしょうか。

ミッションは「すべての人に個人航空を!」

Terrafugiaは、米MIT(マサチューセッツ工科大学)を卒業した5人が2006年に創業したスタートアップ企業です。「すべての人に個人航空を提供する」をミッションに掲げ、空飛ぶクルマ「Transition」の実用化に向けた開発を進めています。その開発状況について、同社の共同創業者でCTO(最高技術責任者)のカール・ディートリッヒ氏が語りました(写真1)。2018年1月に開かれたオートモーティブワールド(主催:リードエグジビションジャパン)での基調講演です。同氏の講演から、空飛ぶクルマや垂直離着陸機の最新事情を紹介します。


写真1:米Terrafugiaの共同創業者でCTO(最高技術責任者)のカール・ディートリッヒ氏

一般に、航空機での移動手段は航空会社が運行している旅客機を利用することになります。長距離を短時間で移動できる“モビリティ(移動)ツール”です。しかし、自宅から飛行場まで、到着した飛行場から目的地まで、その移動に時間がかかるのも事実です。こうした課題を解消するのが、「個人が自分で航空機を使って移動する個人航空」(ディートリッヒ氏)です。Terrafugiaは、個人航空のための飛行機を開発しているのです。

ディートリッヒ氏によれば、個人航空を実現するためには数々の解決すべき課題があります。具体的には、(1)格納庫が必要なほか、燃料が高価なため自動車に比べて所有コストが高い、(2)パイロットの資格を取得するためには多大な時間が掛かる、(3)エンジンのウオームアップに時間がかかり、すぐに出発できない、(4)到着した飛行場から目的地までの交通手段が整備されていない、(5)天候の影響を受けやすく安全性の確保にもコストがかかる、などです。

操縦不能になるトラブルはAIを使って回避

こうした課題を解決するため、Transition は、地上を走る時は翼を畳み、飛行場に着くと翼を広げて飛行機として空を飛ぶというスタイルを選びました。自宅から道路を走って飛行場に向かい、そこで翼を拡げて空へ飛び立ち、目的地に近い飛行場に着いたら翼を畳んで自動車として目的地へ向かう——。これがTransitionの利用イメージです(動画1)。

動画1:米Terrafugiaが開発中の空飛ぶクルマ「Transition」の紹介ビデオ(34秒)

大きさは、「翼をたためば自宅のガレージに収納できるように設計されており、20時間の訓練で操縦資格が取得できる」(ディートリッヒ氏)といいます。燃料は自動車と同じガソリンを使うことで所有コストを下げています。自動車モードから飛行機モードへは1分で切り替わるので、「飛行場でエンジンを温める必要はない」(同)としています。

もう1つの課題である「飛行機としての安全性の確保」に対しては、デジタル技術の利用が有効だと考えています。まずTransitionは、飛行機の基本装備ともいえる「ADS-B(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)」という航空機の位置と高度を把握するネットワークに対応するほか、他の飛行機との衝突を回避するレーダーを実装しています。

また飛行機事故のなかで最も多いのは「操縦のコントロールを失うこと」(ディートリッヒ氏)ですが、そこは自動飛行技術によって事故を回避する方針です。AI(人工知能)も活用します。現在は、「ドローンなど無人航空機向けの機械学習を用いて有人航空機の安全性を高めるための技術を開発している」(同)ところです。AIに天候のパターンを学ばせることで、「悪天候時のトラブル回避に有効だ」(同氏)と言います。当然ながら、自動車としての安全性確保には衝突試験を行っています。

VTOL(垂直離着陸)機で収益を上げるには時間が必要

Terrafugiaは、空飛ぶクルマに加えて、VTOL(垂直離着陸)機の「TF-X」も開発しています(動画2)。

動画2:TerrafugiaのVTOL(垂直離着陸)機「TF-X」のイメージビデオ(3分7秒)

VTOLは小さなスペースで離着陸できるため、「都市型のモビリティ」として注目が高まっています。仏エアバスや米ボーイングなど大手航空機メーカーが参入を表明しているほか、米Uber TechnologyはVTOLを用いた「オンデマンド・エアータクシー」の開発を検討しています(動画3)。

動画3:ボーイングが買収したAurora Flight Sciencesが開発する電動VTOLのイメージビデオ(3分19秒)

試験飛行までたどり着いているTransitionは実用化が近づいていますが、ディートリッヒ氏は「VTOLを都市で利用するには、まだまだ課題がある」と指摘します。その1つが管制システムをめぐる課題です。

航空機のパイロットは管制官と音声で対話しながら飛行しています。VTOLを都市型モビリティとして普及させるためには、「管制との音声通話がなくても飛べなければならない」としたうえでディートリッヒ氏は、「こうした規制に関連したシステムが成熟するまでには時間がかかるだけに、収益を得られるまでに長い期間を要する」とみています。そこでは、大手航空メーカーなど資金が潤沢な企業のほうが有利になります。

それでもディートリッヒ氏は、「多くの企業が今こそ、空飛ぶ飛行機やVTOLなど、新しい事業領域への参入を決断すべきだ」と強いメッセージを投げかけます。日本の自動車メーカーや鉄道会社は、進行中のモビリティ革命に対応するために、新たな事業戦略を描き始めていますが、その中に、空飛ぶクルマやVTOLは含まれているのでしょうか。空飛ぶクルマやVTOLがモビリティ革命に、どんなインパクトをもたらすのか、その動向からは目が離せません。

執筆者:小林 秀雄(ITジャーナリスト)

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