トヨタのカーシェアリング「Ha:mo」、多様化するニーズを見据え世界で実験中

2017.07.04
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自動車業界におけるシェアリングエコノミーの代表的なアプローチに「カーシェアリング」があります。自動車に乗りたいときに短時間だけでも、すぐに借りられる仕組みです。そんなカーシェアリングのためにトヨタ自動車が開発したのが「Ha:mo(ハーモ)」と呼ぶシステム。東京都内での実証実験では「より広範な利用ニーズに適応させる必要がある」との判断から、2016年3月までだった当初予定を2018年3月まで延長しました。トヨタはカーシェアリングにどんな世界を描いているのでしょうか。

駅近くにも駐車場を設け都市部の利用ニーズを検証

実証期間を延長したのは、駐車場事業大手のパーク24と2015年10月20日から共同で実施している「Time Car PLUS × Ha:mo(タイムズカープラスハーモ)」。パーク24が提供する、いつでも必要な時間だけ車を利用できる「Time Car PLUS」のサービスと、トヨタがHa:moで使用している小型のEV(電気自動車)の「TOYOTA i-ROAD」と「COMS」を使い、個人を対象にしたカーシェアリングのあり方を検証しています(動画1)。

動画1:「Time Car PLUS × Ha:mo」の紹介ビデオ(2分53秒)

この実証実験の最大のポイントは「乗り捨て型(ワンウェイ型)」である点です。つまり、車を借りた地点に返すのではなく、目的地で返却できる仕組みです。一般に国内で提供されているカーシェアリングサービスのほとんどは、貸し出し地点に車を返す「ラウンドトリップ型」。これはTime Car PLUSでも同様です。乗り捨て型は、利用者にはメリットがありますが、運営者側にすれば、出発地点とは別にゴール地点にも駐車スペースが必要になります。特に日本のように、路上駐車ができる道路が非常に少ない場合、乗り捨てられる駐車スペースを確保しにくくなります。加えて、車両の配置情報の管理や、乗り捨てられた車が特定の地域に偏った場合は、それらを適度に再配置するための手間も発生します。

そこでTime Car PLUS × Ha:moでは、都内の主要駅を中心に貸出と返却ができる駐車場を増やしているほか、地下鉄駅に近接した道路上に専用の駐車エリアを設置することで、大都市圏のカーシェアリングのあり方について実証実験を続けているのです。

マンション住民や観光客を対象にしたカーシェアも実証中

Ha:moの実証実験は、Time Car PLUS × Ha:moだけではありません。都市圏での乗り捨て型のほかにも、近距離の移動、商業施設といった目的地への移動、ビジネスシーンでの利用など、種々のニーズを想定した実験を東京・江東区豊洲や沖縄北部、さらにはフランスのグルノーブルなどで展開しています。

東京・豊洲:WANGAN ACTION × Ha:mo

WANGAN ACTION × Ha:mo」は、契約した特定のマンションの住民だけを対象にしたラウンドトリップ型サービスです。マンション事業者と組み、短距離・短時間での気軽な利用を想定しています。マンション以外の駐車場所としては、商業施設の「アーバンドックららぽーと豊洲」と「コレド室町2」のほか、三井不動産リアルティが手がける駐車場「三井のリパーク」が中央区と江東区、港区にもつ駐車エリアを無料で利用できます。

沖縄県北部:ちゅらまーいHa:mo

ちゅらまーいHa:mo」は、「沖縄北部の観光地を周るアトラクション」として2016年1月から展開しているサービスです。観光客を対象に、沖縄県北部の本部町と今帰仁村、名護市、伊江島に定められた観光コースの周遊を想定しています。コースは全部で8つあり、所要時間は2時間か4時間。そこを1人乗りのEV「COMS」で回ります。全車両に「おすすめルート案内」機能を持つタブレットが搭載されており、周遊ルートを案内します。ちゅらまーいHa:moも、終了時刻までにEVを借りた場所に返却するラウンドトリップ型です。

動画2:「ちゅらまーいHa:mo」の紹介ビデオ(4分33秒)

仏グルノーブル:Cite lib by Ha:mo

Cite lib by Ha:mo(シテリブ・バイ・ハーモ)」は、フランスのグルノーブル市や電力公社などと共同で2014年10月から展開中の実証実験です。公共交通機関とカーシェアリングを連携させることで、渋滞や大気汚染といった都市交通の課題解決を図るのが目標です。実施期間は3年。i-ROADとCOMSを使用し、乗り捨て型での近距離の利用を想定しています。そのため、公共交通機関の定期券所有者には利用料金を割り引いたり、地下鉄の経路検索システム「Station Mobile」と連携したりと、他の交通機関との組み合わせた利用方法を実証しています。

動画:「Cite lib by Ha:mo(シテリブ・バイ・ハーモ)」の紹介ビデオ(4分47秒)

「次世代エネルギー/社会システム実証」として豊田市でスタート

海外を含む各地で展開されているHa:moの実証実験ですが、最初の実証実験はトヨタのお膝元、愛知県豊田市で2012年10月に始まった「Ha:mo RIDE(ハーモ・ライド)」です。COMSが10台、駐車場は4カ所からのスタートでしたが、現在では100台以上のCOMSと50カ所以上の駐車場を抱え、個人会員数が4000人以上、法人会員は70社以上に上ります。富士通や独SAP、米Dell EMCなど多くのITベンダーが協賛企業に名を連ねていることなども特徴です。

Ha:mo RIDEは、2015年3月までの3年計画で実施された経済産業省の「次世代エネルギー/社会システム実証」の1プロジェクトでした。CO2削減が大きな目標で、EVを公共交通機関を補完する移動手段に位置づけ、乗り捨て型として検証しました(動画4)。公共交通への乗換をも検索できる「Ha:moマルチモーダルナビ」を提供し、移動の仕方がどう変化するかを測定。会員外に向けた「ビジタープラン」も用意し、観光などで訪れた人でも手軽に利用できるようにしています。

動画4:「Ha:mo RIDE」のコンセプト紹介ビデオ(2分35秒)

これまでの実験結果からは、利用者平均でCO2を30%以上削減できることが確認できています。その後もHa:mo RIDEはサービスが継続され、現在は市民の日常生活やビジネスシーンに広く利用されています。今後は、駐車場のさらなる充実や使い勝手の改善、コスト低減などに取り組み、実用化を目指します。

クラウド上でデータを一元管理してHa:moを実現

カーシェアリングでは、車両の管理システムも重要な要素です。Ha:moの車両管理システムは「OMMS/2(One Mile Mobility Management System/2)」と呼ばれ、すべての車両情報をクラウド上で一元的に管理しています。ではOMMS/2は、どんな情報を管理しているのでしょうか。利用者の動きに沿ってみてみましょう。

まず利用者は、スマートフォン用のHa:mo専用アプリケーションから車両を予約します。その情報を受け取ったOMMS/2は利用者に、利用可能な車両の情報(駐車されている場所や車両ナンバーなど)を送信します。この際、OMMS/2側では、EVの充電状況や車両の配置などを加味しながら、貸し出す車の最適化をリアルタイムで処理しています。Ha:moの車両はBLEビーコンに対応しており、予約したスマートフォンで鍵を開けたり閉めたりできます。これもOMMS/2が制御しています。

利用者は車を借り出したら目的地まで運転しますが、その間も、車両の位置やバッテリーの残量などを、車載センサーを通してOMMS/2が収集しています。同時に、利用者が求める道路のナビゲーションや、おすすめスポットといった情報をOMMS/2から送信します。この際、公共交通機関の運用管理システムと連携し、EVを利用する前後の交通機関のスケジュールやルートをチェックすることもできます。

Ha:moの実証実験によって、OMMS/2自身のデータの集約・管理の仕組みも日々進化してきました。増え続けるデータを格納するためのスケーラビリティ(拡張性)や、センサーデータのリアルタイム処理、それらのデータを安全に管理するためのセキュリテと信頼性、他社システムとの連携を可能にするオープンなアーキテクチャー、利用者ニーズに合わせたサービスを提供するためのアプリケーションの迅速な開発などなどです。次世代都市交通システムを支えるプラットフォームとしてCOMS/2は、継続した成長が求められているのです。

暮らし方や働き方の多様化がカーシェアリングを求める

カーシェアリングの利用者は、ここ1、2年で確実に増加しています。カーシェアリングであれば、自動車の購入費用や維持費を支払うことなく、時間単位の利用料だけで車を使った移動が可能になるからです。加えて、地域の活性化やCO2削減などを実現するエコシステムとしても改めて注目されています。車の利用方法が多様化することは、私たちのライフスタイルやワークスタイルも多様化していくことを意味しています。トヨタも、カーシェアリングだけでなく、家や街を含めたエネルギーの融通などに向けた実証実験なども展開しています。

モノをひたすら生産・消費し続けるのではなく、既に存在するリソースを必要な人々の間で共有・利用するシェアリングエコノミーは、自動車メーカーに対しても、自動車を作って売るだけの時代からの脱却を迫っています。多様化する社会にクルマを浸透させ、新しい役割を与えることで世の中をより良くすることが求められます。Ha:moによってマネジメントされながら街中を軽快に走り抜ける小さなEVは、次世代のクルマ社会への大きな期待も載せているのです。

執筆者:山本 貢嗣(Digital Innovation Lab)、五味 明子(ITジャーナリスト)

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