米配車サービスのUberが自社製ソフトウェアをオープンソースにする理由、独自の開発者向けイベントを開催

2019.02.14
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テクノロジーを使ってビジネス変革を図るデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが日本でも本格化しています。その世界的なきっかけの1つが米Uber Technologiesが開始した配車サービス「Uber」であることは間違いないでしょう。既存産業を打ち壊す“ディスラプター”の代名詞とも言える同社が2018年11月、技術者を対象にした自社イベント「Uber Open Summit」を初開催しました。なぜ自前のイベントを立ち上げたのでしょうか。

サンフランシスコの中心にある自社オフィスで開催

配車サービス「Uber」の名前は誰もが耳にしたことがあるでしょう。2009年に米サンフランシスコで創業したUber Technologiesの配車サービスの名称です。利用者と一般のドライバーをネット上でマッチングを図り、利用をクレジットカードで決済する“移動のためのサービス”として登場し、一気に市場を拡大しました。

その後は、食品の配達などにもサービス範囲を拡大したり、自動運転車の開発に乗り出したりと事業拡大を続けています。日本では、タクシー業法の関係などから自動車の配車サービスは実現していませんが、世界65カ国600都市以上でサービスを提供しています。

そのUberが2018年11月15日(現地時間)、米サンフランシスコの中心であるマーケットストリートにある自社オフィスで「Uber Open Summit 2018」と名付けたソフトウェア開発者を対象にした自社イベントを開催しました(図1)。テーマは、同社が開発し提供するOSS(オープンソースソフトウェア)です。


図1:「Uber Open Summit 2018」のホームページの例(同サイトより)

OSSは、ソースコード(プログラミング言語で書かれたプログラムの文字列)の使用や修正、拡張、再配布などが商用/非商用を問わず可能なソフトウェア。基本ソフトウェア(OS)の「Linux」はじめ、最近では多くのソフトウェアが、このOSSモデルの下で開発・利用されています。

競合するLyftの技術者も参加したOSSイベント

ただUberが、OSSに関するイベントを開催するのは、これが初めてです。それでも、AppleやRedhat、TwitterやUnityといった米大手ソフトウェア企業、あるいはスタートアップ企業の技術者が参加。中には競業する配車サービス会社Lyftの技術者も参加しました。当日のカリフォルニアでは大規模な山火事が発生していたこともあり参加者人数こそ150人程度にとどまりましたが、開催までには定員の400人を超える申し込みがあったといいます。

Summitでは、UberがOSSとして提供しているソフトウェアを題材に多数のセッションが開かれました。題材の1つが、分散トレーシング用ソフトウェアの「Jaeger」です。分散トレーシングは、分散して動作しているアプリケーションの全体としての動きを追うための仕組みで、最近のシステムでは重要な役割を担っています。

分散トレーシング用ソフトウェアとしては、米Googleが開発した「Dapper」や、それを元にTwitterが開発した「Zipkin」が有名ですが、Jaegerも米国のIT専門誌のInfoWorldが実施する「The best open source software for cloud computing」部門に2017年と2018年の2年連続で選ばれるなど、多くのプロジェクトに採用されています。

動画1:Uber Open Summit 2018における「Jaeger」のセッション内容(36分4秒)

もう1つ人気を集めていたのが、Deep Learning(深層学習)用ソフトウェア「horovod」のセッションです。Deep Learnigは昨今のAI(人工知能)ブームもあり話題ですが、処理量が大きいという課題があります。その処理を、学習ソフトウェアの変更を最小限に抑えながら分散型で処理できるようにするのがhorovodです。このソフトウェアも2018年、InfoWorld誌の「The best open source software for machine learning」に選ばれています。

自社製ソフトウェアをわざわざOSSにしている

実はUberは、2012年から自社で開発したソフトウェアのOSS化に取り組んできました。これまでの320を超えるOSSを提供しています。これらOSSに対して、バグを確認・修正したり、コメントを翻訳したりするなど何らかの貢献をしている「コントリビューター」と呼ばれるソフトウェア技術者は1500人を超えるといいます。

Summit会場にいたUberの技術者の話では、「Uberは自社のサービス専用に開発したソフトウェアであっても、OSS化が可能だと判断すれば、Uber独自の仕様を取り除いて汎用化しOSSとして提供する」とのこと。そうしたOSSへの取り組み姿勢を示すため、Summit当日には、OSSの最も有力な推進団体であるLinux Foundationへゴールド会員として加盟することも発表しました。

ゴールド会員は、15社からなるプラチナ会員に次ぐもので、米Facebookや中国のAlibaba Cloud、日本のパナソニックや東芝、トヨタ自動車など、Uberを含めて12社が名を連ねます。

では、なぜUberはOSS化に積極的なのでしょうか。Linux FoundationのエグゼクティブディレクターであるJim Zemlin氏によれば、OSSのエコシステムを形成する動機は大きく4つあります。

(1)重複を避け、非競争領域の研究開発投資を共通に負担する
(2)ユーザーが参画することでベンダーロックインを解除する
(3)勝ち目がないフィールドを平準化し、非競争領域にする
(4)デジタルネイティブな企業と戦うために既存業種が連合する

研究開発費の抑制と技術者の獲得が狙い

このうちUberのOSSへの取り組みは、その領域がWeb開発からビックデータ活用、AIなど多岐にわたることからうかがえるように、非競争領域におけるソフトウェアの研究開発投資の抑制にあります。OSSにすることで保守性を高め、バグをなくしたり機能を進化させたりすることも期待できます。

もう1つ重要な狙いがあります。超一流の技術者の確保です。Summitのさまざまなセッションにおいて、Uberからの発表者は「Hiring(採用中)」という呼びかけを繰り返していました。ソフトウェア開発のプラットフォームであるGithubにあるUberのOSSのホームページでも、その最下行には「Work at Uber(Uberでのお仕事)」へのリンクが設定されています(図2)。同社のOSSに興味を持った技術者を採用窓口へ誘導しているのです。


図2:GithubにあるUberのOSS紹介ページ。最下行には「Work at Uber(Uberでのお仕事)」へのリンクがある(Githubのページより)

2016年時点でUberの従業員数は約6000人。その3分の1に相当する2000人がソフトウェア技術者ですから、「Uberはソフトウェア企業である」といっても過言ではありません。配車に代表されるさまざまなサービスを生み出しているのは、まさに、それらソフトウェア技術者が開発したソフトウェアによるものだけに、どれだけ優秀な技術者を確保できるかが、同社ビジネスの成否を左右するというわけです。

OSSコミュニティーとのつながりが自社の利益につながる

ただ、先に紹介したように、Linux Foundationのプラチナ会員やゴールド会員には、Uber以外にも、GoogleやFacebook、MicrosoftやIBMなども名を連ねますし、TwitterやNetflixといった企業もOSS化に積極的に取り組んでいます。各社とも、OSSコミュニティーとの関係を強化・維持することが、ソフトウェアの進化や品質確保につながると同時に優秀な技術者の確保につながること、そして最終的には自社の利益につながることを認識しているのです。

OSS利用は進み、アプリケーションソフトウェアのソースコードの80~90%がOSSであるとも言われています。そして、そのOSSは、ソフトウェアを生業にするITベンダーからだけではなく、Uberなどサービス事業のためにソフトウェアを開発する企業からも生まれているのです。

デジタルトランスフォーメーションに取り組むうえでは、Uberなどデジタルエコノミーを先導するプレーヤーのサービス動向はもとより、それを支えているOSSの動向にも注意していく必要があるでしょう。さらには、自らがOSSコミュニティーに参画することも考えていく必要があるかもしれません。

執筆者:恩地 正裕(Digital Innovation Lab)、志度 昌宏(DIGITAL X)

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