増える“使い放題”サービス、デジタルで在庫品を収益源に変える

2016.09.13
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一定額を支払うことで“使い放題”になるサービスが増えています。従来も“使い放題”をうたうサービスは存在してきましたが、書籍や音楽のほか、自動車や飛行機までに、その対象が広がってきています。これを可能にしているのは、もちろんデジタルの力。在庫品とみられていた商品が、デジタル空間では大きな収益源になるとの期待が広がっています。

定額・読み放題のサービスで最近、増えているのが書籍の読み放題。楽天系の「楽天マガジン」やNTTドコモの「dマガジン」などです。2016年8月3日には、米Amazonが書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited」を日本でも始めました。月額980円で、同社の電子書籍「Kindle」に対応した小説やコミック、雑誌など和書12万冊、洋書120万冊以上を無制限に楽しめます(動画1)。無料のKindleアプリケーションをダウンロードすれば、スマートフォンやタブレット、PCやMacでも読めます。

動画1:Kindle Unlimitedの紹介ビデオ

電子書籍だけでなく、実際のモノに対する“使い放題”も登場しています。その1つが、中古車売買を「ガリバー」ブランドで展開するIDOMの「NOREL(ノレル)」。月額4万9800円で好きな車を最短90日間で乗り換えながらマイカーとして利用できるサービスです(図1)。夏はオープンカー、冬は4輪駆動車、春と秋はセダンといった具合です。車検費用や税金の支払いは不要で、任意保健料金が含まれています。2016年8月18日から、まずは100人限定で先行リリースしましたが、既に定員を超える申し込みがあったようです。

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図1:月額4万9800円で車を乗り換えられる「NOREL」のホームページ

高速バスの乗り放題もあります。全国のバス会社59社が設立した「JAPAN BUS LINES協議会」が、外国人観光客向けに提供する高速バスの乗り放題チケットです。対象は北海道から九州までの約100路線で、7日間の乗り放題が2万円、14日間なら2万8000円です。また海外のサービスですが、米Surf Airはカリフォルニア州を中心に飛行機の乗り放題サービスを月額1950ドル(約20万円)からで提供しています。同社は今秋から欧州でも同サービスを展開する計画で、月額2500ポンド(約32万5000円)で欧州主要7都市間が乗り放題になります。

ロングテール+ビッグデータが新たなビジネスモデルを生む

紹介してきたように定額制サービスは様々な業界で提供されています。一般には、「定額=お得感」を特徴に消費者に訴求しています。ただ定額サービスを提供する側にとっては、対象商品や利用料金の設定などビジネスモデルの検討が重要になります。なぜ今、新たな「定額サービス」が増えているのでしょうか。その理由の1つが、デジタル化による「ロングテールの収益化」が容易になってきていることがあります。

ロングテールとは、販売量が少ないニッチな商品やサービスを多数取り揃えることで全体としての売上高を高めるという考え方、あるいはそうした現象のことです。米Amazonの書籍販売が、その成功例の1つです。さらに最近はスマホの登場で、ロングテールが発生しやすくなっています。いつでも、どこでも興味のある商品やサービスを検索し、必要なら、その場で購入できるようになったためです。

例えば、音楽の世界では最近、若い世代の人たちが定額配信サービスを使って、10年も20年も前にリリースされた楽曲の中からお気に入りの曲を見つけ出し、それがソーシャルメディアを介してヒットにつながるという現象が起こっています。音楽のCD化は1980年初めから始まっており、物理的には販売されなくなっている古い楽曲にもオンラインなら出会えるわけです。

タブレット端末に向けたサービスを手がけるオプティムが提供する雑誌の読み放題サービス「タブレット使い放題 powered by OPTiM(タブホ)」も同じです。同サービスの特徴は、同社が“準新刊”と呼ぶバックナンバーのすべてが読み放題なこと(図2)。新刊流通がほとんどの雑誌業界において、デジタル化したバックナンバーを取り扱うことで、雑誌のロングテールを狙っているのです。2014年末のサービス開始当初は92誌、296冊が対象でしたが、2016年8月末時点では510誌、1800冊以上に対象が増え、国内最大規模としています。

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図2:「タブレット使い放題 powered by OPTiM(タブホ)」のホームページ

書籍や雑誌の電子化は、CDほどの歴史がありません。Amazonによる強引な電子書籍化が非難された時期もありましたが、Amazonによる書籍のロングテールビジネスに危機感を覚えた出版社などが電子化に取り組んだ結果、多くの電子書籍や電子雑誌が作られるようになり、出版各社も電子書籍/電子雑誌のためのビジネスモデル作りに取り組んできました。デジタルコンテンツの増加が、読み放題サービスを可能にしているとも言えます。

定額サービス増加のもう1つの理由は、消費者の利用状況を示すビッグデータへの認識の高まりでしょう。アクセスログというビッグデータを分析すれば、誰が、いつ、どんな商品を選んだのかはもとより、その商品を選ぶ際に他に、どんな商品を参照したのか、あるいは何度も参照したのに最終的には利用しなかったなど、売れ筋以外の情報も得られることの理解は相当に広がっています。

実際、雑誌の読み放題サービス「タブホ」では、雑誌のページ閲覧数や滞在時間、雑誌内で最も反響の多いページや読者の評価などを「雑誌ビックデータ」として蓄積。それを出版社に提供することで、読者の行動分析を可能にしています。出版社に読者分析のためのデータを提供することで、消費者向けのサービス料金を安価にしているのです。

IDOMの車の乗り換え放題サービスNORELでも、乗り換え対象になる車の品揃えの最適化を図るためにビッグデータ分析を活用するとしています。利用者が選んだ車種や乗車時間、乗り換えまでの期間といったデータを蓄積し分析することで、人気車種やトレンドを把握。顧客に対して品揃えがニーズに合致していることを訴求することで、車を季節やニーズに合わせて乗り換えるという車の新しい利用方法を定着させようという考えです。

ビッグデータを核にした異業種連携も

従来の定額・使い放題サービスは、単なる安売りや提供者側の都合だけで利用者が実際に使いたい商品/サービスが含まれていないなど“粗悪”なイメージもありました。ですが、ここまで紹介してきたように、ロングテールとビッグデータを組み合わせることで、利用者ニーズに応えながら新たな収益源を見いだせる可能性が高まっているのです。

ビッグデータを核にした異業種連携も進むでしょう。米配車サービス大手のUber Technologiesは、高級品のディスカウント情報を提供する米Gilt Cityと組み、「通勤時間帯のUber POOL乗り放題プラン」をGilt Cityの会員に提供しました。ニューヨーク地区での2016年7月と8月限定でしたが、地下鉄やバスを利用するよりも安価にタクシーで通勤/通学ができるサービスです。競合他者との差異化を図りながら、ニューヨークという都会で高級品を嗜好する消費者の通勤/通学行動を分析することで、新たなサービス創造の可能性を探っているのではないでしょうか。

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図3:「通勤時間帯のUber POOL乗り放題プラン」を販売するGilt Cityのサイト

デジタルの力を借りた定額サービスは今後も、その対象や料金モデルなどを様々に変えながら進化していくに違いがありません。その中では、「在庫品だ」「もう売れない」と思っていた商品/サービスが収益源に変わっていくかもしれません。定額サービスにどんなビジネスモデルが登場してくるのか注目です。

執筆者:前田 航(Digital Innovation Lab)、高橋 ちさ(ジャーナリスト)

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