米国ITトレンドで見通す デジタルな近未来【後編】

2015.06.30
リスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

多くの企業がGoogleと同じコンピューティング・パワーを求め、手にする

アプリケーションによる自己防衛

話が少し脇道にそれたので本題に戻ります。次は、前出の④のトレンド、「リスク・ベース・セキュリティ/セルフプロテクション」です。

ご存じのとおり、昨今のサイバー攻撃は手口が非常に巧妙になり、出入り口対策をいくら講じても、ITの脆弱性や「人」の脆弱性(セキュリティ・リテラシーの低い社員の脆弱性)を突かれたり、社内スタッフの裏切りに遭遇したりして、あっさりと機密情報が盗まれるケースが少なくありません。

そんな中で、必要性が高まっているのが、リスク分析をベースにしたセキュリティ施策とアプリケーションによるセルフプロテクション(自己防衛)であるというのが、ガートナーの主張です。この点に関するガートナーの見解をまとめると以下のようなかたちになります。「今後は、あらゆるアプリケーションに、(セキュリティ上の)脅威に対する自己認識と自己防衛の能力が求められ、アプリケーションの設計・テスト、ランタイムのすべてにおいて、セキュリティ対策を組む込む必要がある。近く、セキュリティをアプリケーションに直接組み込んだ新しいモデルが登場する」。セキュリティ確保の方向性に関しては、さまざまな意見があるとは考えますが、その辺りの議論についてまた別の機会に譲ります。

3Dプリンティング

本稿の最後として、前回からの積み残しである「3Dプリンティング」について触れておきます。3Dプリンティングは、とても重要な技術です。ガートナーでは昨年(2014年)も3Dプリンティングを戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10にランクさせていましたが、日本の経済産業省もこの技術の可能性に大きな関心を寄せており、同省が例年作成する国内製造産業の報告書『2014年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)』の中でも、しきりに3Dプリンティングの重要性を唱えています。(図2参照)

経済波及効果~2020年で約21.8兆円(全世界)~

図2:3Dプリンタ等による経済波及効果(出典:経済産業省「2014年版ものづくり白書」)

同白書の記述によれば、3Dプリンティングなどの「付加価値製造技術」の全世界における経済波及効果は、2020年に21兆8,000億円に達するとのことです。21兆8,000億円の内訳は、装置・材料市場が1兆円、関連市場(付加価値製造装置で作られた製品市場)が10.7兆円、付加価値製造装置による製造の合理化効果が10.1兆円といった具合。ガートナーでも、2015年の3Dプリンタの出荷実績は、2014年の約2倍に膨れ上がり、2016年も倍増すると予測しています。

そんな中で、なぜか日本企業の3Dプリンティングへの対応は遅れ気味です。ものづくり白書で言及されている調査データ(「Wohlers Reports 2013」)によれば、世界における3Dプリンタの累計出荷台数(1988年~2012年累計出荷台数)における日本製品のシェアはわずかに3.3%。71.2%シェアの米国製品に圧倒的に引き離されています。3Dプリンタの日本ベンダーはほとんど目立たない存在というわけです。

ベンダーだけではありません。経済産業省の調べ(2014年1月調べ)によると、国内の大手製造企業の中で3Dプリンタを「本格的に活用している」としたのは19.4%でしかなく、逆に半数近く(43.7%)が(関心はあるものの)「活用の予定なし」との回答。15.5%は関心すらない状況です。「本格的に活用している」と答えた大手製造企業も、94.9%が「サンプルの試作・開発」での活用にとどまっています。

こうした状況に対し、経産省は「日本企業は3Dプリンタの潜在的な可能性に刮目し、この市場のグローバル・リーダーになるべき」と危機感を隠しません。記述を見ると、同省が日本の製造企業の3Dプリンティングへの対応の遅さ・消極性に対して少しイラついているような印象すら受けます。

いったい日本企業はなぜ消極的なのでしょうか?確たる理由はともかく、「成功の復讐」が作用しているのかも知れません。日本企業は、生産ラインの品質や現場力、摺り合わせ能力、さらに生産性に強い自信を持っています。それに比べれば、3Dプリンティングなんておもちゃ同然。製造業にとっては利用するシーンがないし、ベンダーは作っても売れない・・・。こんな可能性です。

しかし3Dプリンティングの進化は急ピッチ。モノ作りのコストを劇的に下げるだけではなく、モノ作りのあり方そのものをガラリと変容させる可能性があります。ですから日本の製造企業も、3Dプリンタ市場への本格参入の機をうかがうのはもとより、3Dプリンティングでどんなイノベーションを引き起こせるか、3Dプリンティングで何をどう変えられるかを掘り下げて考えるべきなのでしょう。

ITの進化は持たざるモノも持つモノも利する

ともあれ3Dプリンティングにせよ、機械学習にせよ、インターネットやクラウドにせよ、モバイルにせよ、あらゆるデジタル技術の進化・発展は、「持たざるモノを利する」方向に進むという側面を持ちます。大規模なIT設備を持たない企業がGoogle並のコンピューティング・パワーを得られてしまうクラウドの登場・発達はその典型例です。技術のコモディティ化にしても、知の集積や製造技術の蓄積のない企業の競争力を増すものです。3Dプリンタも大規模な製造設備を持たない企業・組織、あるいは人を利するものでしょう。

さらにモバイルのデータ通信技術は、有線での通信インフラのない国・地域に多大な恩恵をもたらしてきましたし、人工知能・機械学習の技術は、知識・知見・経験・判断力の欠落を補うものと言えます。そして、こうしたデジタル技術の特性と恩恵は、小規模なベンチャー企業を瞬く間に巨大企業へと押し上げ、新興国の劇的な経済発展を促してきたわけです。

とはいえ、デジタル技術の進化・発展は本来、持たざるモノだけを利するわけではなく、持つモノも等しく利するものです。また持つモノと持たざるモノが同じ土俵に上がれば、持つモノのほうが有利に事を進められるのは、言うまでもありません。持つモノの不利な点は、守るべきものがあるという「イノベーションのジレンマ」です。ですから、あとはアイデアとシナリオ次第――。みずから創造的破壊に乗り出さなければ、破壊されるだけ--これからもデジタル技術のトレンドに目を向けて、ビジネス・チャンスを探し続けて下さることを期待します。

itj_690×300

EVENTイベント