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「経験と勘」から「科学とテクノロジー」へ  ITベンチャーのベテランが“農業”に挑む理由

2016.02.29
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ICT活用のフロンティアとして、注目が集まる農業。先行したオランダでは2000年代に、産学官が連携してICTでトマトの栽培を変革することに取り組んだ。その結果、オランダが世界第2位の農産物輸出国に成長したことは、とても有名な話である。

大型農家や農場による単一作物の機械化農業が主流の米国では、ICTを活用する動きは欧州に一歩遅れた。しかし最近になって農業×ICT「agritech」と呼ばれるようになり、農業ICTベンチャーが巨額の資金調達に成功するケースが急増している。

小規模農家による多品種生産が大半の日本は、さらに遅れた。しかしTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)締結の動きが進む中で、ようやく様々な取り組みが始まっている。圃場の日照や温度、湿度、水などの状況を把握し、最適な栽培条件を見出そうとする試みや、自然に左右されずに農産物を生産する農業工場などである。

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そんな日本の農業を変えようとするベンチャーの1社に、ベジタリアという企業がある。ベジタリアという企業のことを知らずとも、同社を率いる小池聡氏の名前を聞いたことがあるという人は、少なくないのではないか。小池氏は、2000年前後に巻き起こったインターネット・ブームをネットエイジやネットイヤーグループの代表としてリードした人物。ネットエイジ・ネットイヤーは当時、最も著名なネット企業の1社だった。

ベジタリアの創業は、農業ICTに注目が集まる前の2010年。小池氏は、どういうきっかけで農業に転身したのか。agritechの可能性をどう考え、どんな夢を描いているのか。同氏の6年の軌跡は、農業ICTベンチャーだけでなく、ICTで世の中を変えようとする多くの人に参考になるはずである。

IT=金儲けではなく、世の中の役に立ちたい

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小池氏はインターネット黎明期の1990年代に、米国シリコンバレーでベンチャーキャピタリストとして活躍した経歴を持つ、日本に帰国後はネットイヤーグループの代表として、ビットバレー構想を提唱した。

しかし次第にネットビジネスが投資の対象として注目され、儲かれば何をやってもいいといった風潮が蔓延すると、強い違和感を抱くようになった。「金儲けが悪いわけではありませんが、もっと世の中の役に立つことができるはずだと考えるようになりました」という。だがすぐに答は見つからない。しばらく悶々とした日々を過ごした後の2008年、東京大学のエグゼクティブ・マネジメント・プログラム(EMP)という社会人向けビジネススクールに入学することにした。

教える側ではなく、学生として、である。
「一期生として学ぶことにしました。そこで当時の東京大学総長だった小宮山宏先生がおっしゃっていた、『日本は課題先進国だ』という考えに触発されました。どういうことかというと、環境、エネルギー、資源、医療など、日本は世界に先んじて問題に直面してきた。日本の課題を考え、解決策を見出すことは、世界にインパクトを与えるというわけです」(小池氏)

小池氏が注目したのが農業だった。
「石油などエネルギー問題も大切ですが、人間のエネルギー源である食料の問題はもっと大事じゃないか。『食べる』ために働くのは世界共通だし、食べるものだから安全性・生産性が求められる。そんな農業の課題を解決することが、食料問題の解決にもつながると考えたんです」(小池氏)

EMPを卒業した小池氏は2009年に就農した。借りた農地を耕し畑を作り、ビニールハウスも建てた。「農業をする以上は、付加価値のあるものを」ということでイタリア野菜を育ててみたという。しかし丹精込めて育てた野菜は病虫害でほぼ全滅。初めての就農は苦い経験となった。

「農業の素人にありがちなんですが、無農薬栽培をやろうとした。現実は甘くありませんでした。実際の農業は病気や害虫、天候との戦いでした」(小池氏)こうした失敗を通じて、小池氏は「農業の課題」を発見する。病虫害や天候との戦いをICTの活用で支援できるのではと考えたのだ。

「最初に目をつけたのが『フィールドサーバ』という農業用の監視装置です。農場の環境や植物のモニタリングができる、センシング機能と通信技術を一体化した装置です。ユーザーとして導入したのですが、使い勝手がよくなかった。温度や湿度などが表示されても、素人には数字の意味も、どう生かせばいいかもわからない。値段は結構しますから、普通の農家に普及させるのは難しいと思ったんです」(小池氏)

しかし課題はチャンスでもある。フィールドサーバを改善すれば、農業にICTを生かすきっかけにできるかもしれない。そう考えた小池氏は、フィールドサーバを手がけていたイーラボ・エクスペリエンスの島村博社長に相談を持ちかけた。すぐに2人は意気投合し、協同して製品を改良していくことになる。

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