「経験と勘」から「科学とテクノロジー」へ  ITベンチャーのベテランが“農業”に挑む理由

2016.02.29
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次世代農業は「経験と勘」から「科学とテクノロジー」へ

もう一人、小池氏にヒントを与えた人物がいる。東京大学大学院農学生命科学研究科教授の難波成任氏だ。難波氏はEMPでの担当教官でもあり、植物病理学の専門家として、様々な植物の病虫害に関するデータを持っていた。

「トマトのこの病気は気温が何度、湿度が何%になると発症するとか、難波先生の研究室には、あらゆる植物の病気に関するいろんなデータがあるわけです。そこで教えて頂いた知見をもとに、栽培方法を改善していきました。すると農薬に頼らず、質のいい野菜・果物ができるようになったんです」(小池氏)

こうした経験から小池氏は、農業にICTを組み合わせる価値を確信するようになった。「経験と勘」の暗黙知による農業を、「科学とテクノロジー」に置き換えることだ。農業のベテランは、例えば「トマトは水を絞ると甘くなる」ことを長年の経験から知っている。しかし「なぜ水を絞るとトマトは甘くなるのか?」「どういうタイミングで水を絞るのがベストか」といった疑問に答えられる人は少ない。その仕組みを解明すれば、誰でも甘いトマトを作れるようになる。

「植物が育つメカニズムは、すでにかなりの部分が科学とテクノロジーによって解明されてきています。特に2000年にシロイヌナズナの全ゲノム配列が解読され、植物科学は飛躍的に発展をとげてきました。しかし、施設内の植物工場ならともかく、露地の圃場では自然が相手。どうすれば病虫害を防ぎ、栄養価の高い野菜が作れるのか、そういったノウハウはまだ十分ではありません。ですから『土を触れば土の状態がわかる』といった経験と勘に頼る農業を、センサーを使って正確にデータを計測し、植物生育に最適な環境を作り、病虫害を予測しながら対処していく事ができます。データのモニタリング・解析で農業をサイエンスにすることが重要になります」(小池氏)

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その実践には前出の難波氏を初め、多くの研究者たちの協力を得ている。「日本の研究機関には、膨大な研究データという宝の山があります」と小池氏は言う。「例えば、ほうれん草は冬場が旬の野菜で、夏にはビタミンCの含有量が冬場の4分の1くらいになります。これは『旬のものは旬の時期に食べよ』ということでもあるのですが、収穫物のビタミンと肥料の各種ミネラルとの相関関係を解析すれば、夏場でも栄養価の高いほうれん草を作るアルゴリズムが導き出せます」(小池氏)

共感される理念がそこにあれば、異分野の才能が集まる

ベジタリアは研究機関に加え、多くの農業生産者、ICTベンダー、行政とも連携し、人類共通の食糧問題を解決する次世代緑の革命を目指している。
「生命・健康の源である『食』と食を生産する『農』の問題を生体調和型で解決することで、究極的には持続可能な環境と健康社会を作っていきたい。これが、私が次世代緑の革命に取り組む理由です。ですから全部1社で囲い込んで、組織内で全てを解決したいとは思っていません。もともとシリコンバレーのITベンチャーにいたので、オープンイノベーション型のカルチャーが染み込んでいるのだと思います」(小池氏)

「持続可能な健康社会を、食を通じて実現する」という目的を掲げるベジタリアには、理念に共感する異分野の才能たちが集まり、そこから様々なアイデアが生まれる。結果として、組織としてもビジネスとしても順調に成長を続けているという。

とはいっても、ICTによる農業の変革はまだ始まったばかり。今はまだ自社のテクノロジーをどう使うか、自社のビジネスを農業を通してどう成長させるかよりも、それによって未来の農業をどう支えるかに重きを置く。そうした発想で農業やICTに関わる様々なプレイヤーの足並みが揃い始めた時、本当の意味でICTによる農業革命が達成されるのかもしれない。

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<プロフィール>
小池聡(こいけ・さとし)●1959年生まれ。iSi電通アメリカ取締役副社長兼COOなどを経て、シリコンバレーを中心にベンチャーキャピタリストとして活動後、1999年ネットイヤーグループを創業(2008年東証マザーズ上場)。2004年ネットエイジグループ(現ユナイテッド)代表取締役就任(2006年東証マザーズ上場)、2009年まで代表執行役社長CEOを務める。2010年東京大学EMP発ベンチャーとしてベジタリアを設立し、代表取締役社長に就任。東京商工会議所(渋谷)副会長、公益社団法人ベトナム協会理事、総務省日アセアン官民協議会委員、文部科学省革新的イノベーション創造プログラム構造化委員などを務める。

執筆者:小山田裕哉
撮影:石原敦志

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