独フォルクスワーゲンの研究開発トップが明かす自動運転の難しさ

2019.03.05
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クルマの自動運転への取り組みと並行し、移動手段としてのサービスを提供する「MaaS(Mobility as a Service)」への取り組みが本格化しています。主要な自動車メーカー各社が、MaaS分野でも、さまざまなコンセプトを打ち出し、その実現に力を入れています。独フォルクスワーゲン(Volkswagen)も、その1社。同社は、自動運転やMaaSをどうとらえ、どう実現しようとしているのでしょうか。

フォルクスワーゲンの自動運転/MaaS戦略について、独Volkswagen Group Researchで自動運転技術の研究開発のヘッドを務めるヘルゲ・ノイナー(Helge Neuner)博士が解説しました。東京ビッグサイトで2019年1月に開かれた「第11回オートモーティブワールド」(主催リード エグジビション ジャパン)の基調講演でのことです。同博士の講演内容から、フォルクスワーゲンの取り組みを紹介します。


写真1:フォルクスワーゲンの自動運転/MaaS戦略を話す独Volkswagen Group Researchのヘルゲ・ノイナー(Helge Neuner)博士

自動運転中のドライバーは何をしているか分からない

自動運転の段階は、すべてをドライバーが操作する「レベル0」から、どんな場所でもシステムがすべてを操作する「レベル5」までに分けられています。2019年初めの時点では、ドライバーの運転を支援するレベル2が実用化段階にあります。緊急時はドライバーが操作するという条件付き自動運転であるレベル3を超えると、システムによる操作が主でドライバーの操作が従へと変わります。

ですがノイナー博士は、「レベル3の本格普及には、まだ時間がかかる」と言います。「自動運転時のシステムによる操作からドライバーによる操作へ移行するタイミングを、どう考えるかの課題がある」(同)からです。

たとえば高速道路に入り、システムによる自動運転が始まります。すると「自動運転の間、ドライバーは何をしているかという新しい問題が発生する」とノイナー博士は指摘します。ドライバーは、前方に注意を払っているかもしれないし、ゲームに夢中になっているかもしれないため、「ドライバーの操作に切り替える際は、人が操作できるようになるまでの猶予時間が必要になる」(同)というのです。

そのタイミングは、ドライバーの年齢にも依存するようです。フォルクスワーゲンの実験では、システムからドライバーによる運転に切り替える仕組みを、若い人から年老いた人までを対象に検証したところ、「2〜4秒で対応できるドライバーもいれば、8〜9秒かかるドライバーもいた」(ノイナー博士)といいます。

走行中のクルマが、どのレベルで走行しているのか、自動運転に切り替える際にレベル3以上のどのレベルを選ぶのか、自動運転がどの程度続くのか、自動運転からドライバーが運転する状態にいつ切り替えるのか、などシステムを開発する上で考慮しなければならない点は、少なくありません。

自動運転には異なるセンサーの組み合わせが必要

自動運転における、もう1つの課題が歩行者や他の自動車など“動的な”障害物にどう対応するかです。ノイナー博士は、「カメラ、LiDAR(ライダー、光で物体を検知・測距する仕組み)、レーダー(電波で物体を検知・測距する仕組み)といったセンサーのそれぞれに強みと弱みがある。これらを補完的に統合することで、より安全な自動走行が実現できる」と話します。

具体的には、カメラで障害物のデータを集め、LiDARとレーダーの情報から状況を正しく把握するという考え方です。たとえば電柱の前に別の物体があることをカメラが検知すれば、そこまでの距離をセンサーを切り替えて計測します。そのため「センサー類を瞬時に切り替えて情報を集めるための高性能なユニットが必要になる」とノイナー博士は言います。

見通しが悪い交差点などでは、カメラでは検知できない物体の動きも予測しなければなりません。「駐車場で自動車を検知した際、それが止まっているのか、駐車しようとしているのか、あるいは出庫しようとしているのかといった“意図”を進行方向などから予測する必要がある。見えない位置に人がいないかどうか、歩行者が次にどう行動しようとしているのかを自動運転車が判断できるだろうか」とノイナー博士は、課題の大きさを指摘します。

その予測においても、「まずは情報の検証が必要だ」とノイナー博士は話します。センサーが車両を検出したとしても、それが本当に車両かどうかをチェックする必要がある。道路標識に、いたずら書きがあれば誤検知する可能性もあれば、歩行者をノイズとして検出できないケースも起こり得る。そうしたケースでも確実に検証ができることが不可欠」(同)です。

レベル5の「SEDRIC」は未来のタクシー

レベル3以上に進むための課題が大きいからと言って、フォルクスワーゲンの研究開発がレベル3の実現にとどまっているわけではありません。同社は2017年の時点で、スイス・ジュネーブでレベル5を実現するコンセプトカー「SEDRIC(セドリック)」を発表しています。

動画1:2017年に発表したレベル5を実現するコンセプトカー「SEDRIC(セドリック)」の紹介ビデオ(54秒)

SEDRICは、ワンボックスタイプの形状で完全自動運転のクルマです。左右に開くスライドドアを備え、車内には2×2のシートが対面式に配置されています。ノイナー博士はSEDRICを「今日でいうタクシーのようになる」と紹介しました。タクシーが自動運転車になるメリットをノイナー博士は、次のように説明します。

「空車時間を減らし稼働効率を高められる。複数のお客を同時に乗車させれば、より効率化が図れる。車両間で調整することで、都市部での一定時間内の走行距離が伸びる。その結果、交通渋滞や混雑が減るなど大きな影響を与えるだろう」

輸送サービスにおける自動運転のメリットも大きいとノイナー博士は話します。「高速道路に限定されても、自動運転になればドライバーの疲労軽減につながりサービスが向上する。部分的な自動化であってもメリットは多数ある」(同)からです。

仮想と現実をテストで徹底的に比較する

ノイナー博士は、自動運転車の開発において最も大切なことは「安全性が高いシステムだ」と断言します。歩行者が飛び出して来た時、衝突の確率や事故の大きさなどを校了し、事故による被害を可能な限り小さくできるベストケースを考えて選択できなければならない」(同)のです。

その実現に不可欠なのがテストです。ノイナー博士は、「自動運転車が事故を起こすというシナリオも考え、テストによって現実と比較しなければならない。道路の状況や車線の数、標識、境界線の有無、他の車の位置、天気などなど、さまざまな走行条件をサンプルとして抽出する必要がある。それらをどう検知するかについても、リアルな世界からシナリオを考えなければならない」と言います。

実用化に向けた取り組みが本格化する自動運転ですが、高い安全性を確保するためには、センサーやAIといった華々しいテクノロジーだけでなく、車の走行シナリオを作り込み現実と照らし合わせたテストを繰り返すという地道な取り組みが欠かせないことは、今も昔も変わりません。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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