個人向けチャットアプリがビジネスのプラットフォームに、中国最大「WeChat(微信)」の利用実態

2017.05.11
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中国でスマートフォン用アプリが日本以上に様々な場面で利用されていると言われています。ですが実際には、どんな用途に使われているのでしょうか。そんな疑問に答えるレポートが発表されました。中国では使っていない人がいないとされるテンセント(Tencent)のチャットアプリ「WeChat(微信)」の利用状況です。いくつかの調査結果から、中国でのチャットアプリの利用実態をみてみましょう。

WeChat(微信)」は中国テンセントが開発するチャットアプリで、日本を含む全世界に向けてサービスを提供しています。日本のチャットアプリでは最大のユーザー数を持つ「LINE」と良く比較されます。WeChatには、スマホ用のほかにPC用やタブレット用のアプリがあり、相互に音声チャットやビデオチャットが可能です。チャットだけでなく、ネットショッピングや各種チケットの購入、決済などの機能も提供されています。

9億人近くが利用、モバイル決済額も増加

WeChatの利用実態をまとめたレポートを、テンセント傘下でインターネット産業を専門に調査している企鹅智酷(PENGUIN INTELLIGENCE)が2017年4月末に公開しました(発表資料)。同レポートによれば、WeChatの月間アクティブユーザー数は8億8900万人。2013年からの3年間で2.5倍近く増加しています(図1)。


図1:「WeChat(微信)」の月間アクティブユーザー数の推移(企鹅智酷の発表資料=https://view.inews.qq.com/a/TEC2017042400429702=に日本語訳を重ねた)

ビジネスの現場にも深く浸透中

日本の総人口の約8倍というユーザー数には驚かされますが、今回発表されたレポートでより驚くのは、WeChatが単に個人がチャットを楽しむためのツールとしてだけではなく、ビジネスの現場にも既に深く入り込んでいることです。その一端を示すのが、微信上でつながっている“友だち”の対象です。友達として新規に追加している相手としては、同僚や同業界で働いているビジネス上のつきあいがある人が57.3%と最も多いのです(図2)。その割合は、友人や家族といった、より強い関係がある対象の3倍近くにもなっています。


図2:新規に追加する“友だち”の対象は圧倒的にビジネス関係が多い(企鹅智酷の発表資料発表資料=https://view.inews.qq.com/a/TEC2017042400429702=に日本語訳を重ねた)

そんなビジネス関係の友だちとWeChat上でやり取りしているのは、ビジネスのコーディネートやアレンジです(図3)。「WeChatではビジネス上のやり取りをしない」というユーザーも20%弱あるものの、連絡や通知、文書のやり取りなどは、もう一般的な行動になっているようです。


図3:WeChatのビジネス用途ではコーディネートやアレンジが最も多い(企鹅智酷の発表資料発表資料=https://view.inews.qq.com/a/TEC2017042400429702=に日本語訳を重ねた)

チャットアプリでのビジネスのコーディネートやアレンジといった用途は、個人間のやり取りしかしていないユーザーにとっては、少しイメージしにくいかもしれません。これは、WeChatが持つグループチャット機能を使って実施されています。グループチャット機能はLINEでも提供されていますが、WeChatでは同業者や同じ興味を持った人たちが、大きくなると数百人単位のグループを作っています。そのグループで仕事関連の情報をやり取りするのです。

例えば、日本でのIT人材の派遣情報などをやり取りしているグループもあるのですが、そこでは人材を募集しているプロジェクトの情報などがチャットの形で公開されています(図4)。興味のある情報があれば、その場で情報の発信者に連絡できますし、チャットの履歴を検索すれば、まだ募集中のプロジェクトを見つけ出すこともできます。つまりビジネス上のマッチングがWeChat上で行われているというわけです。


図4:日本でのIT人材の派遣情報などをやり取りしているグループの画面例

モバイル決済「WeChat Pay」の利用範囲が拡大

マッチングといったコーディネートやアレンジと並んで多い使い方が、資金移動です。自営業者に限れば、コーディネートやアレンジよりも資金移動のためにWeChatを利用している率が高まります(図5)。


図5:自営業者がWeChatで実施している行為で最も多いのは資金移動(企鹅智酷の発表資料に日本語訳を重ねた)

WeChatは「WeChat Pay」と呼ぶモバイル決済の仕組みを提供しており、これを利用するための、お財布アプリ「WeChat Wallet(銭包)」も用意しています。チャット中に、このWeChat Walletを呼び出すことも容易で、WeChat Walletにお金がチャージされていれば、チャット相手とお金のやり取りが、いつでも可能です(図6)。さらにWeChat Walletと銀行カードを連携させておけば、銀行口座からお金をチャージできます。これにより、銀行口座からチャットでお金を支払ったり、受け取ったお金を口座に戻したりができるというわけです。


図6:WeChatでのモバイル決済の画面例。左は資金移動の流れ、右はWeChat Walletの画面

自営業者でのWeChat Payの利用が広がっている背景には、一般消費者がWeChat Payをオンラインだけでなく、実際の店頭での支払いにも活用し始めていることがあります。回答者の92%が実店舗でもWeChat Payで支払うとしています(図7)。地方都市では現金やカードでの支払いが増えますが、WeChat Payの利用率は地方都市でも決して低くはありません。


図7:実店舗でもWeChatの決済機能「WeChat Pay」を使用するユーザーが増えている(企鹅智酷の発表資料=https://view.inews.qq.com/a/TEC2017042400429702=に日本語訳を重ねた)

実店舗での支払いへの利用を後押ししているのが、カードケース機能「WeChat Cards & Offers」です。企業の会員カードや優待券などを集約でき、大量のカードを持ち歩く必要がなくなります。このWeChat Cards & Offersも、回答者の42.5%が良く使うとしています。WeChat Payが使われる店舗は、スーパーやコンビニエンススト、WeChat Cards & Offersはマクドナルドやスタバックス、ケンタッキーフライドチキンといった飲食店が多いようです。こうした広がりからWeChat Payでの支払額も増えており、月に5000元以上支払う人も1割を超えています(図8)。


図8:決済機能「WeChat Pay」での月間支払額はより高額に(企鹅智酷の発表資料=https://view.inews.qq.com/a/TEC2017042400429702=に日本語訳を重ねた)

個人向けと企業向けのサービスの境界が薄れる

WeChatは自身の公式ページで「WeChatは1つのライフスタイルである」と宣言しています(動画1)。今回の調査結果をみれば、そのライフスタイルは単に一般消費者のものだけでなく、会社や組織で働く人々のものも取り込んでいることが分かります。もっとも、社会で働く私たちは当然、消費者でもあるのですから、WeChatのようなコミュニケーションツールにおいては、両者の境界があいまいになることは不思議ではないのかもしれません。モバイル環境が一般化するなかでは、多くのサービスが「企業向け」や「個人向け」などに分けられなくなるのではないでしょうか。

動画1:WeChatを使った1日を紹介するイメージビデオ

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)

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