IoTに照準合わせる無線通信、低消費電力うたう新規格が続々

2016.03.08
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昨今大きな話題になっているITキーワードの1つが「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」。すべてのモノをネットワークにつなぐことで、新たなビジネスやサービスの創出が可能になるとの期待が高まっています。そのため、ITの専門書だけでなく、一般紙やビジネス誌でもIoTが大きく取り上げられています。あなたの組織でも、IoTに関して何らかの取り組みが始まっているかもしれません。

IoTのためのネットワークが必要になっている

そうしたなか、各種技術もIoTに照準を合わせた開発や標準化が進んでいます。IoTを構成するテクノロジーは大きく、データを収集するセンサー、集めたデータを蓄積・分析するためのクラウド(またはサーバー)、そして両者を結ぶネットワークに分けられます。多種多様なセンサーやクラウドに目が奪われがちですが、本格的なIoT時代を前に、ボトルネックになりかねないと見られているのは、実はネットワークなのです。

こう言うと、「携帯電話を含め高速なネットワークが普及してきたからこそIoTが現実味を帯びてきたのではないのか」「公共機関などが進めるフリーWi-Fiが本命では」といった意見が聞こえてきそうです。それも間違いではありませんが、現行の携帯電話網やWi-Fiにも欠点があります。最大の課題は通信のための消費電力です。

スマートフォンやPCなどでも、外出先では電源の確保に苦労することがありませんか。これが、様々な場所に設置するセンサーの場合、設置場所の近くに電源を確保できるとは限りません。バッテリーで駆動するにしても設置場所によっては何度も交換はできません。できるだけ長期間、交換せずに使えることが望ましいのです。こうした要件から、IoTに最適化した通信規格の見直しや新たな提案合戦が激しくなってきています。

通信規格は距離に応じて最適化されてきた

通信規格は、人やセンサーからの距離によって、「PAN(Personal Area Network)」「LAN(Local Area Network)」「WAN(Wide Area Network)」の3つに分けられます(図1)。通信距離は、PANが10〜20m程度、LANが100m程度、WANは100m程度以上を、それぞれ想定しています。これまでも、距離や利用シーンに応じて、通信規格は最適化が図られてきました。

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図1:PAN(Personal Area Network)、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)の位置付け

以下では、IoTに焦点を当てた通信規格について、これらPAN、LAN、WANの順に紹介しましょう(表1)。

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表1:IoTに焦点を当てた主な通信規格

PAN(Personal Area Network)のための通信規格

PCやスマートフォン、音楽プレーヤーなどを使っていれば、利用することも多いのが、PANに分類される通信規格です。「Bluetooth」といった規格は、利用したこともあるでしょう。元々、省電力化が図られており、センサー用に設計された「ZigBee」という規格もあります。

Bluetooth、ZigBeeにおいても、IoT対応をうたう規格が策定されています。「Bluetooth LE(Low Energy)、ブランド名はBluetooth Smart」と「Zigbee IP」です。Bluetooth LEは、バージョン4.0の呼称ですが、現行のバージョン3.0との後方互換性はありません。低消費電力、低価格に向けた専用規格で、現実的な通信速度は10kbps程度、通信距離は5m程度とされています。

Zigbee IPは、IPv6に対応した通信規格「6LowPan」に対応したZigbeeです。IPv6のアドレスを利用できることになります。同様の規格に、日本の情報通信研究機構(NICT)が中心になって開発した「Wi-SUN」があります。スマートメーター向けの通信規格で、やはりIPv6網に直接接続できるのが特徴です。6LowPanについては、TCP/IP技術の標準化を図っているIETF(Internet Engineering Task Force)が策定しています。

LAN(Local Area Network)のための通信規格

LANの無線版といえば、「Wi-Fi」です。オフィスや一般家庭はもとより、コンビニエンスストアや飲食店、駅や公共施設など様々な場所に設置され、無料で利用できる環境も増えています。最近は、2020年の東京オリンピックをはじめ、訪日外国人を多数迎えるための通信環境としても設置が進んでいます。

このWi-FiのIoT対応版となるのが「Wi-Fi HaLow(IEEE802.11ah)」です。標準化を進めるWi-Fiアライアンスが2016年1月4日(米国時間)に発表しました。

Wi-Fiがギガビット/秒単位の通信が可能なまでに高速化が図られてきたのとは対照に、Wi-Fi HaLowは最大数メガビット/秒程度と速度を落とすことで低消費電力化を図っています。逆に通信距離は1キロメートルと、より広い範囲をカバーできるようになっています。BluetoothやZigbeeより高速・大容量の利点を生かし、「ある程度蓄積したデータをまとめて一気に送信する」といった用途を想定しているようです。

WAN(Wide Area Network)のための通信規格

WANのための通信規格の代表は、日頃利用している携帯電話(セルラー)網です。2016年1月時点の主流は、LTE(Long Term Evolution)で、3.9/4G(第3.9/4世代移動通信)とも呼ばれています。

携帯電話網の次世代規格である「5G(第5世代移動通信)」は、LTEの50倍も高速なギガビット/秒クラスの通信速度を持ち、これまでになく低遅延であることが特徴です。IoTのためのネットワークとしても期待が高く、スマートフォンで動画などをより快適に見るための高速化ではなく、コネクティッドカー(自動車のIoT)など、よりリアルタイムな制御を求めるIoT分野の基盤を目指すとの意見もあります。

ただ、5Gの標準化はまだ完了しておらず、多くの携帯通信事業者は2020年前後の商用化を目標にしています。IoTが求める消費電力の面でも、データをやり取りしないときは電波を発しないなど、今後の検討課題も残ります。

2020年の実用化目指す次世代移動通信5G、その可能性と課題

(引用:thavasa sam)

5Gの商用化を待たずに、IoTのためのLAN環境としての実用化/標準化が進む通信規格があります。1つは、免許が不要な電波帯を利用する「LPWAN(Low Power Wide Area Network)」です。フランスの新興企業SigFoxが展開する「SigFox」や、米国のLoRa Allianceの「LoRa」などがあります。

SigFoxは既に、フランス全土をカバーするネットワークを敷設済み。加えて、スペインやオランダ、イギリス、ベルギーなどEU圏でのネットワークを拡大。米国ではサンフランシスコとニューヨークでサービスを開始しています。一方のLoRaは、半導体メーカーSemtechが持つ「LoRa(Long Range)」技術を核にした規格で、米IBMや米Cisco Systemsなども参画しています。

もう1つの規格が、免許が必要な電波帯をIoT用途で利用するための「NB(Narrow Band)-IoT」です。LTEの未使用帯であるガードバンドや第2世代の携帯電話網などが利用できます。2015年12月には中国の華為技術が英Vodafoneと共に、スペインでの実用化に成功したと発表しました。

移動通信の標準化団体3GPP(Third Generation Partnership Project)も、免許周波数帯におけるLPWAの開発と商用化を加速するために「Mobile IoT Initiative」と呼ぶ推進組織を設置し、NB-IoTなどの標準化を急いでおり、NB-IoTを2016年後半にも商用化したい考えです。

常に高速化の方向に向かっているようにみえるネットワーク環境も、IoTという用途を考えると、様々な角度から進化し始めています。IoTに取り組むためには、こうしたネットワークの標準化からも目が離せません。

執筆者:高橋誠(Digital Innovation Lab)、小林秀雄(ITジャーナリスト)

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