物流業にシェアリングを持ち込んだ豪Yojee、AIとブロックチェーンで3時間配送を実現

2017.09.05
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ネット通販の利用が拡大する一方で、悲鳴を上げているのが物流業者です。ヤマト運輸がサービスの見直しや料金の値上げに象徴されるように、これまでのやり方で急増する荷物の量に対応しきれなくなっているのが現状です。そうした中、オーストラリアの物流サービス会社のYojeeが「3時間配送」といったサービスを掲げ、事業を拡大しています。一体、どのような仕組みで事業展開を図っているのでしょうか。

集荷依頼から荷物の受け取りまでをスマホで確認

Yojeeは2015年12月、現CTO(最高技術責任者)のAndras Kristof氏らがシンガポールで設立した会社です。2016年6月に、オーストラリアのSouthern Crown Resources(SCR)に買収されましたが、買収後は企業名を「Yojee」に変更しました。SCRは2010年にオーストラリア証券取引所(ASX:Australian Stock Exchange)に上場していましたので、今はYojeeとしてASXに上場しています。

同社が「Standard(標準)」に位置付けるサービスは「Same Day Delivery」、つまり当日配送です。集荷日の夜10時までに配達します。しかし最短の配送サービスとして「3 Hour Express Delivery」も用意しています。依頼者が指定した時刻に集荷し、そこから3時間以内に目的地に届けるというもの。届ける荷物の重量や、集荷地から目的地までの距離に応じて追加料金が発生するものの、3時間以内で配送できる仕組みを確立しているということです。

利用者は集荷の依頼や荷物の受け取りなどをすべて、Yojeeが提供するスマートフォン用アプリケーションで依頼や確認ができます(図1)。集荷の依頼であれば、アプリから集荷に来てほしい時間や場所、方法などが指定できます。依頼後は、集荷に向かっている車両が何分後に到着するのかもリアルタイムで確認できます。


図1:Yojeeが提供するスマートフォン用アプリケーションの画面例。リアルタイムなチャットや、配送状況の確認のほか、ドライバーなどサービス提供者に向けはジョブ管理といった機能を提供する(出所:豪Yojeeのホームページ)

荷物を受け取る際も同様です。配送に向かっている車両の運転手の名前や、あと何kmの位置にいて何分で到着するのかが分かります。アプリを使って運転手と直接、連絡を取ることも可能なため、受け取り時間の変更なども容易です。

Yojee自身は物流機能を持っていない

これだけなら上場している大手の物流会社がスマホアプリを活用しているだけに見えるかもしれません。ですが実はYojee自身は配送のための資産を持っていません。配送に協力してくれる企業や個人を募り、彼らを結び付けることで、航路や空路を含めた巨大な物流ネットワークを仮想的に形成しているのです。同社が手がけるのは、協力してくれる物流事業者を連携させるためのソフトウェアの開発と、その運用です。

そうです、Yojeeは、米Uber Technologiesや米Airbnb同様に、物流業界にシェアリングの概念を持ち込みました。実際、自らの物流事業を「Sharing」と呼んでいます(動画1)。今ではYojeeの物流ネットワークは世界9カ国に広がり、592の物流倉庫と3万3100台の車両が参画しています。

動画1:豪Yojeeが“Sharing”で構築している仮想的な物流ネットワークの概念(2分19秒)

Yojeeの物流ネットワークに参画しているのは、中小企業あるいは個人事業主です。彼らは普段、大手の物流事業者が捌ききれない荷物の配送を請け負っています。ただそうした配送時にも荷台には空きスペースがあることが一般的。その空きスペースにYojeeからの依頼品を載せれば、車両の利用効率が高まるうえに、Yojeeからは比較的高額の報酬を受け取れます。大手からの報酬が低い点をとらえ、Yojeeは「より高額の報酬を得られる」とアピールし協力者を募っています。

協力しようと思った企業や個人は、YojeeのWebサイトにまず自身の情報を登録します。企業の前や連絡先はもちろん、提供できる車両の種類のほか、協力できる曜日や時間帯、地域などを指定します。こうした登録情報を元に、条件に合った配送依頼がYojeeから届きます。依頼内容の通りに指定場所まで荷物を運べば報酬が支払われます。


図2:運送事業者や個人の登録をうながすYojeeの画面(出所:豪Yojeeのホームページ)

ブロックチェーンで仮想物流ネットワークの信頼性を高める

シェアリングで配送コストを抑えているといっても、荷物が時間通りに届かなかったり途中で紛失したりといったことでは継続的な事業展開は望めません。この配送サービスへの“信頼感”を高めるためにYojeeが活用しているのが、ブロックチェーンのテクノロジーです。

ブロックチェーンは、分散処理により取引記録(トランザクション)を記録するための仕組みです。事実上、データの改ざんは不可能だとされています。Yojeeのシステムでは、荷物の集荷から、途中の倉庫に荷物が到着したとき、次の車両に荷物を引き渡したときなど、荷物の動きをとらえるのに必要なポイントごとにデータをブロックチェーンに記録しています。

こうした荷物の配送状況を把握するために大手の物流企業は、大規模な自社データベースを構築し、そこから利用者に配送状況を表示しています。ここにブロックチェーンを利用することで、大規模なデータベースシステムではなく、小規模なサーバーを複数台集めて、同様の機能を実現したというわけです。Yojeeのシステムでは、荷物の現在位置を正確に把握できるほか、どこかで配送が止まっていれば担当業者に至急、調査するよう指示が出せます。

最適なドライバーとルートを算出

サービス品質を支えるためにYojeeは、AI(人工知能)と機械学習も活用しています。例えば、目的地までの最適ルート、車両と荷物の割り当て、経由する倉庫などをAIと機械学習で算出します。協力会社の車両の現在位置や利用状況、倉庫の利用状況などをリアルタイムで解析し、車両1台当たりの利益が最大になるように割り当てます。

ルート算出時には、そのルートに適したドライバーも選び出します。ルートとドライバーの現状を示すデータと、過去の配送履歴データとを30以上の基準で評価して決定します。これらの取り組みにより、Yojeeのプログラムは、AIや機械学習を利用していない配車プログラムと比較して、同量の業務を23%少ない車両で完了させる方法を導き出したとしています。

利用客からの注文の受付にもAIを活用しています。チャットボットにAIを適用し、利用客からの依頼や質問に自動的に返答します(動画2)。このチャットボットの受け答えでも配送依頼には十分に対応でき、受け付けた内容は配車などの割り当てを担当するシステムに送られ、以後の手続きも自動的に進行する仕組みになっているようです。

動画2:豪Yojeeのスマホアプリを使った集荷依頼の例。対応しているのはチャットボット(18秒)

テクノロジーで中小企業の競争力を高める

Yojeeは物流業者でありながら、自前では荷物を運ぶための資産は保有せず、実際に荷物を運ぶこともありません。そのために、多くの中小や個人の物流事業者を束ね、その仮想的な物流ネットワーク上で、より高い配送効率を実現するためのデータ分析と活用に取り組んでいます。

テクノロジーを使って、中小企業群が大手の物流事業者と同じ土俵で競争できる環境を作ると同時に、中小の事業者もスケールメリットの恩恵に預かれるようにする。Yojeeが打ち出した仕組みは、悲鳴を上げる日本の物流業界にとっても大きなヒントになるでしょう。

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)、笹田 仁(ITジャーナリスト)

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